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天の川銀河からの贈り物Ⅱから

「天の川銀河からの贈り物Ⅰ」はちら

~2P~
エルは結婚してから長らく専業主婦をしていた。
子育てが一段落した5年前から、アロマセラピストの資格を取り
自宅でサロンを開いている。
48歳になるエルには、22歳になる美奈子という一人娘がいる。
夫信弘は52歳。 小さいながら中小企業の社長をしている。

信弘は昔企業戦士だったが、独立してからは尚のこと仕事人間になりきった。
朝から夜遅くまで、仕事のことが頭から離れないような毎日だった。
そんな夫とエルや美奈子が食事を共にするのも、一か月に一、二回くらいで
普段は母子家庭のような毎日だった。
だから子育てで一息つきそうなとき、エルは自宅で仕事をしたいと思ったのだ。
以前から、アロマオイルの匂いがとても好きなこともあり
それを仕事にしたいと考えた。

専業主婦の日々は、それはそれで幸せだと思っていた。
金銭的にも困ることはなかったし、自分の好きな空間や部屋で過ごせもした。
子供にもそれほど手はかからなかった。
美奈子は頭の良い、人の顔色をすぐにくみ取るような子で
大人たちの会話に神経をとがらせるようなところがあった。
エルはそんな美奈子に気付いていて、なるべく夫婦間でもおだやかな会話を
心がけていたのだ。
美奈子は色白でかわいらしい顔立ちもエルに良く似ていた。
背はそんなに高くはなく、中肉中背で何を着てもソツなく着こなしているようだった。

そんなしあわせの薄いベールがはがれかけたのは、とある秋の出来事だった。

~3P~

美奈子は最寄りの駅を出て、家へ向かう坂道をゆっくり歩いていた。
秋とはいえ日中は暑くて汗ばむが、帰宅時間の夕方には少し肌寒くなる。
いつもは半そでの腕が気になるのだが、今日はそんなことは上の空だった。
それはさきほど起こった出来事が、余りにも自分の感情をうきうきさせていて
自分で不思議な感覚に包まれていたからだ。
お昼にある人に再会した。
以前友達から紹介されていた、友達の彼氏の友人。
一度会ったきりそのままだったが、気になる人ではあった。
その人は懐かしげに近寄ってきた。
それから以前からの知りあいのように話をしたのだ。
たわいもない話で、数分間だと思う。
でもその時間で、何となくそのひとがわかるときがある。
別れ際また会いたいと思ったが、口には出せないでいた。
すると、向こうからまた会いませんか?と尋ねてくれた。
心中「やった!」と思ったのは言うまでもないが
次回の約束を 美奈子が好きなイタリアンのお店にと勧めてくれた。
イタリアン好きは出会ったときにした話で 
ちゃんと覚えてくれていたということだった。
それも美奈子にとってはうれしかった。
興味を持っていてくれた~何故かそのことに胸がドキドキしたのだった。

~4P~

自宅マンションの玄関のカギを開けようとしたとき 
鍵が開いているのに気づいたミナ(美奈子)は、物騒だなと思いながら
「ママ、ただいま~いるの?」
と サロンのお客さんの靴がないことを確認してリビングへと入っていった。
たまに ママのお客さんが遅くまで残っているときがあったからだ。
でも誰も気配がない。
と、その時 ガタっと奥和室から母エルが出てきた。

少し狼狽していて、顔をこちらに向けない。
「ママ、…大丈夫?どうしたの?」
何か異様な感じを受けたミナが尋ねると
「う…ん…お帰り」とかすれた母の声がした。

エルは、ミナに泣き顔を見せまいとすぐ台所に立って向こうを向いた。
そう エルは泣いていたのだ、先ほどの夫との会話で。
何でもないようなことだった。

サロンを開けてお客さまが来られている昼間に、夫は帰ってきたのだ。
会社で夜の接待へ行くまで、疲れていたので休息しようと思って帰宅した。

ところがめったに昼間家で体を休めることはないのでリラックスしたかったが
帰ったらサロンのお客と妻がいつまでたっても話しこんでいる。
ちょっと何かお腹に入れたかったし、食後のコーヒーもまだだった。
そこで妻を呼んで、小声で気を利かせながら「早くしてもらえないか」と
たずねた。
それに気を害したエルは、お客さまが帰ってからえらく怒りだした。

:..。o○☆゚・:,。 天の川銀河の恋~Ⅰ:..。o○☆

自宅で開いているとはいえ、サロンは自分のプロとしての場所であり職場だ。
それはお互い納得の上のことだし、
エルとしても昼間の時間を譲ってもらっている感謝を示してきたつもりだ。
それなのに、自分の都合で帰ってきているのに
お客さまがいらしている時間を待てずにいる夫に対して
自分への理解を本当はしてもらえていなかった…。
半ば落胆してそんな気持ちを 怒りとして反応した。
普通の夫婦としての家庭の在り方と、仕事での自分の在り方は違って当然だった。
それはおカネをいただいている以上、プロとしてあらねばならなかった。
そんなこと、同じ労働者として分かるはずだと思ったからだ。
ところが、お互いに自分の意見のやり取りがあってから
「この生活を維持しているのは誰なんだ?!」と憤った。
その言葉は パートナーとして陰で支えてきたエルは聞きたくなかった。
それは 自分の女性としての立場を軽視していた。
男女は当然役割が違うと思う。体の仕組みも、脳の働きだって違うにちがいない。
だから子育てを任されていると思ってきたし、その役割があるから
男性も外に出て 気兼ねなく働けるのだと思う。
そうして子育ての時間が必要なくなったとき、新たな夫婦の役割に変化していけばいいし
それはお互いの思いやりの中から生まれて行くものだと信じていた。
モチロン、働く時間が多い夫は自分のことを認めてくれるから家を任せてくれて
自分のことを理解してくれているから、自宅サロンを始めるときも二つ返事だったと思ってた。
ところが、今日の話では自分は理解されておらず、もしかしたら家事育児も当たり前のように
思われてきたのか。
そんなやるせない怒りがこみ上げて 悲しみに変わっていった。
夫が再び家を出た直後から、涙が込み上げてきた。

~6P~

今までにない 複雑な感情でもあった。
どうして夫の気持ちを見抜けなかったのかと自分への怒りも湧いてきたエルだった。

沈む様子のエルに、ため息をつきたい気分のミナだった。
少し浮かれていた自分を押し込めて ママの気分を戻さなきゃ。

「ママ、あのね~ライブって行かない?」

こんな時は 話題をそらすに限る。
ママの複雑な世界には入ってけなかったし、まず自分のことを考えていたかった。

「友達がチケットをくれたんだけど…私が行けなくて。ビジュアル系なんだけどね~?」

「…そうなの?」
うつろな気分が抜けず、意味を理解するのに数分かかったエルだった。

「ビジュアル系って、あの…」
「フフフ、そうよ~ママも若かったら行きたいって以前言ってたじゃない!」
急に目を輝かせて もっと勢い背中を押すように話すミナだった。

「妖気楼ってバンドなんだけど、音は保障するよ!それに、ファンの人ってインディーズからだから
70歳位のお年の人もいたりして、すんごいコスプレもあるよ。ママなんか何も目立たないって。」
「そ、そうかな?…そんなものなんだ。…じゃあ 行ってみよう…かな。」
「そうそう、そうでなきゃ。行ってみてよ。若返るから。」

そんなママならいつでも歓迎、とお茶目に笑うミナだった。

:..。o○☆゚・:,。 天の川銀河からの贈り物~Ⅰ:..。o○☆

   ~7P~

エルは鏡の前を行ったり来たりしていた。
どんな服装がいいのだろう。

いつものちょっとしたお出かけ用は、型にはまったようなスカートやヒールだった。
とはいっても、雑誌に出てくるようなお上品な服装ではあったが。

あれから夫とは同じ屋根の下にはいるが、話もそこそこにお互いにわざとすれ違うように
生活していた。

しなければならない雑用が沢山あることにして、寝るときはエルが自分の仕事部屋へこもってしまった。
あとの二人は当然沈黙していた。
ミナでさえ、今回は何も聞きはしなかった。
家族には、見えない会話をお互いがしていて分かるときがあるのだ。
それを家族テレパシーとでもいうのかもしれない。
とにかく それで何となく暗くなりがちな雰囲気もごまかされたかのようだった。

「さあてとどうしようかな…」エルは今日は少し趣を変えたいと思っていた。
いつもの自分とは違った雰囲気にしたい。
気分転換でもあるし、ある種、自分というものをもう一度確認したいという衝動でもあった。

自分が自分でない感覚というのは結婚した男性も持っているのかもしれない。
けれど女性は誰それのママと呼ばれ、何々家の奥さんと呼ばれるのだ。
それを嫌だと感じたこともなかったが、最近ではいろいろな疑問が湧きあがってくるのだった。
なぜ人は結婚するのだろう、男女ともに一人では生きていけなかった昔の習慣が
今も家という形態を重んじているのか。

結局考えた挙句、先日ミナに買ってやったドルチェ&ガッバーナの黒いTシャツにジーンズという格好に決めてみた。
仕方がない、急だし事後承諾で借りて行こう。
ヒールを履いていくより、ブーツのほうがいいと思ったからだった。

街中は上着を着ていると丁度良い気候だったが、その「ハコ」に入ってみると
ものすごい熱気だった。
ミナよりも若い感じの女の子たちが群れてキャーキャー騒いでいるのを見て
エルはかなり場違い感を覚えた。
やっぱり帰ろうかどうしようかと思って見渡してみるとさすがに年配の方は見かけなかったが
ほんのポツポツではあるけど同年代の人もいることに気づいてホッとした。
それでも 大半が若い女の子どうし時々若い男の子集団であるには違いない。
「ま、いいか。楽しもう」と思えたのは、ステージの始まりが告げられたときだった。

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      ~8P~

彼らのステージの始まりは 怒涛のごとく熱気が飛び交った。
ギャーという悲鳴の中で、彼らは登場した。
前の方では皆動いていて エルのいるところはあまりいい場所ではなかった。
「メッチャかっこいいから」といっていたミナの感性はホントだった。
行くと決めてから ネットで調べたりしてみたが、本人たちを目の前にしたら
目がハートになる女の子たちの気持ちがわかる気がするエルだった。
昔は同じようにスターっていたっけ。
音楽性のある海外のバンドが好きだったけど、もっとこんな風に日本のバンドの
ライブにもいったりすればよかったなあ。
そうすれば 全然違ったノリだったと思う。
もっと積極的に好きなことをすればよかった…などと自分の人生をスライドし始めてる自分に気が付き
これって人生の後半ってあきらめてるってこと?
おばさんだ~と半ば自虐的にクスっと笑ったエルだった。
ライブは熱狂の中、前半を終えてボーカルのMCに入っていた。

「え~~今日はすご~いお知らせがあります!自分たちも今日聞かされてビックリしてるよ。
なんと~世界の宗友(ムネトモ)さんが…」と言ったとたんギャーっとまた場内が鳴り響いた。
「本日…来て下さいました!…」
何かとかき消されて 言葉が分からないが、あの世界的ミュージシャンのMunetomoが来てるらしい。
それも友情出演だとか。彼のバンドは世界進出している「ナップグランド」だ。
ありえない話かもしれないくらい、居合わせてラッキーだった。
彼のリードギターは誰でも聴き惚れる。エルもファンの一人だった。
紹介されて出演した彼は テレビで見るより痩せた感じの背の高い人だった。
彫りが深くて日本人離れしているのは、フランスとのクォーターのせいだと聞いている。
何より 奥深いギターの音色と 少し哀愁のある歌声をはじめて聴いて
普通のファン以上コアなファンになりたいと誰もが思ったことであろう。
エルも 感動で少し涙が出そうだった。
魂が震えるとはこんなことかもしれなかった。
音楽には言葉を超えて 行き来する何かがあり、それがやがて体に染みて行くのを感じられる。
それは一方通行の聴き手と演奏家ではなくて お互いの魂と魂の融合のような瞬間があるのを
はじめて知ったエルだった。

舞台にいるムネトモにこちらを見つめられている感覚がして みんなそういう感じを受けて
このライブを心から楽しんでいるのだと思った。

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  ~9P~

ライブが終了しても、ボーっとした脱力感の中にいて自分を取り戻したのは
会場を出て駅へ行く交差点で立ち止まった時だった。
携帯のバイブを感じて 取り出したエルは、ここがどこだか思い出した。
かけてきたのは 年下の友達 祭子(サイコ)だった。
サイコはエルが今日ライブに行く事情を知っていて、近くにサイコの仕事場があるので
会いたいと電話をかけてきたのだ。

このまま帰りたくないエルだった。
何か感情をつかむとしたら、今この興奮した想いを抱いていたかった。
お腹もすいていたし、喉も渇いていることにようやく気付いたエルだった。
サイコと数分歩いた カフェ「みなと」で会う約束をして 一直線に向かった。
カフェ「みなと」は スパゲッティと焼きたてのパンが美味しい人気店だ。
ともかく 喉を潤(うる)おすのに オレンジジュースを頼んだ。

しばらくして サイコが入ってきた。

「どうだった~?」
茫然自失様のエルに にやけて尋ねながら 席に着いた。

「うん、とってもよかった~♪ねえ!聞いて!ムネトモ来たんだよ!」
「えぇー、超ラッキーじゃん!」
目をまんまるくして 信じられないようだとサイコは言った。

今35歳のサイコとはもう十年来の友達である。
このサイコのお仕事は セラピストなのである。
エルと同じアロマの先生についていて、同期の仲間なのだ。
痩せて女性にしては身長も高い。どこか中性的な風貌を持っている。
あっさりして気さくなものの言い方と、人に親切でどこまでも暖かく関わるようなキャラクターが受けて
今や超人気のセラピストの仲間に入っている。
エルもこの性格に好感を持っているし、サイコもエルの自分にないおとめチックなおしとやかさを
好物にしているのだ。

「本当にラッキーだった…行ってよかったわ。ミナに感謝しないとね。」
そう言ってほほ笑んだエルにすかさず家族の話をサイコは振った。
「よかったね~。で ダンナとはどうしたの?」

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  ~10P~

「うん、まあ、なんとかやってるわよ。家では冷戦状態だけどね。」
と 現実の話をとくと聞かせた。
うんうんとうなずいて 聞いてくれていたサイコは、突然言った。
「ちょっとさ~、この前から聞いていて感じていたんだけどさ~。
何か…あなたたち夫婦って 実は前世でも何か因縁めいたことがあるんじゃない?」

時折エルはサイコの指摘が 真実の核心をえぐり出そうとしている気がしていた。
夫婦のことでもそうだし、子供のことでもそうだった。
サイコは ミナのことをエル以上にわかっているようだった。
年が近いせいもあるのかもしれないが これはサイコの能力だという気がした。
前世のことは エルは考えに入れたことがなかった。
スピリチュアルな事は好きだったが、なぜか夫とのことにそれを当てはめたりはしなかった。
ところが 指摘されて なるほどもしかしたらという気になってしまった。

「サイちゃん、あなたスピ系のお仕事もしてるの?」
ちょっと驚いた風に 尋ねてみた。
「いいえ、でもお客さんと話したりカウンセリングしたりしているうちに
その人の奥に抱えている問題が何となくわかるようになってきたの。
それは もちろん人それぞれ。ただの経済の問題だったり、あやまれば済むことだったりネ。
でも中には もつれた糸を絡ませてくる人もいるのよ。
そんな人は 前世に問題を解決できないできた人もいるの。」

「それが私の問題だってこと?」エルが恐る恐る聞いてみた。

「う~ん、それが問題ってことより、まず今をどう生きるかってことがこの世に生を受けてきた
私たちに必要なことでしょ。だったら、自分はどんな問題を持っていて、どうしたいのかを考えてみることじゃないかな。」
「それって…どうすればいいの。」
「人によって違うけど、もしエルが必要なら前世療法って手もあるわよ。」
「ヒプノセラピーね。」
「別に前世だけじゃない、自分に必要なことが自分でわかるからね。行ってみるならいい人紹介するよ。」

年下のサイコに言われて 
「もしかしたら…じゃあ 前世であなたはお姉さんか親だったかもね。」
とため息交じりに苦笑いするエルだった。

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~11P~

実はエルたち夫婦の難問は この間のことだけではないのだ。
これは今の企業戦士と呼ばれる人々と家庭を持つ夫婦に共通しているのかもしれないが
夫はこの国の経済を支えることが美徳と教育されてか 家庭をあまり顧みなかった。
いわば 心のすれ違いが発端で やがて心を測る尺度さえも 違うようになってしまう。
つまり 会話がなくなってしまい
お互いを理解しようとはしなくなるということである。

出てきた事象は ほんの氷山のカケラなのかもしれない。
先日の口ゲンカは いつかはお互いの真実の想いに面と向かったら起こることだったのだ。
この辺りから 夫婦は分かれ道に出会う。

エルも言葉ではなく 女の感覚として淋しい思いをしてきたことを何度も思い出した。
家を守る~そんな江戸時代みたいな美徳を信じて 自分の想いに蓋をしてきたのだ。

本当はどうしたかったのだろうと 考えた。

夫とつきあったときを思い出した。
いつも一緒に 遠出したり、写真をとりに動物園に行ったり、たわいもない時間が
手のひらでそっと包みたくなるほど 大切だったあの頃。
ミナが生まれて バブルがはじけて それでも必死に仕事をした夫を責めたくはない。

ただほっておかれたように 会話もなくなり、家で過ごす時間も週末さえも仕事や付き合いに
明け暮れた夫だった。
ミナと三人でどこかへ行けるのは その日を決めてから二、三カ月先になった。
そんな生き方を選んだ夫は どう思って生きてきたんだろうと考えた。
そんな 話もしたことがなかったのに気付いたエルだった。

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~12P~

新宿の雑多なビルの5階を目指して エルはエレベーターのボタンを押した。
行先は 「シンヒプノセラピー」という場所だ。
シンは荒井信二という男性のセラピストネームだ。
この男性は もとホストでいろんな女性の気持ちや悩みを解決できる優れた能力があると
サイコ情報は告げた。
シンさんはサイコのお友達でセラピスト仲間であるらしい。

インターホン越しの声は 優しげだった。
中に入ってみると シンさんはガッチリした体格の背も高くないマッチョマンのようだった。
目はするどくて奥にやさしさが漂っていた。

ヒプノセラピーというと医療風の感じがしていたが 部屋は全く普通に生活できるようなリラックスした
感じに造ってあった。
窓際に大きいオットマンのある背もたれ椅子が置いてある。

そこでリラックスしながら セラピーを受けるのである。

シンさんは エルによくわかるように説明をして、受けさせてくれた。
初めてでも 何も感じなくても 大丈夫ということだった。

ところが エルは受けてみて初めて 自分の感受性の強さに驚いた。
イメージが出てくるのもすぐだった。

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  ~13P~

それはどのあたりからだったからか…。

シンさんの誘導で 一番問題の時と場所に行くイメージをしてからだった。

辺りは暗闇から すこしずつ明るくなって 目をつむっているのに
脳内のイメージ的動画は進んでいくようだった。

大きな大きな海?川があり… その沿岸に人がたくさんいる。
そう そこは 古代のエジプトだった。
自分は?どこにいるのか…。

シンさんの誘導は続いている。

これはなにか石の建物の中に入って行く自分と、そこで出会った人物。

「その人の目を見てください。心当たりはありませんか?」とシンさんは尋ねた。

「あっ…」っと小声が出た。

「その人は…」「今ここにいて私をじっと見つめている人は…主人です。」

目をつむっているのに 何だかその目の奥にあるものをいつも見ていた気がした。
その人は主人だった。
それも 普通の関係ではないようだ。

「それからどうしましたか?その人となにかあったのですか?」
「私… きっと… 恨まれてます。…その人に。
「その人の奥さんを 誘惑した…いいえ!違う。 
その人の奥さんとお互いが好きになってしまったのです。それで恨まれているのです。」
その過去でエルは男性に生まれていた。
それは何か戦慄を覚えるような感覚だった。
瞳の奥の その彼の憎悪が突き刺さるような気がした。
ただ これは起こっていても前世のことだし、もしかしたら自分で話を創っているのかもしれなかった。
それはそれで意味のあることなんだけど。

「ではその人に何か言いたいことがあれば言ってみてください。」シンさんが言葉を発した。

言いたいこと…は分からなかった。
なぜだか これは今生へ引き継いできた気がした。
一旦この生での想いにけじめをつけて 一回目のセラピーは終了したが
エルは自分の気持ちに気付けないままでいた。

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~14P~

エルは久しぶりにベランダへ出た。
もう秋の気配は濃厚になって、一枚余分に着ないと寒くていられない。
それでも ずっと遠くを見つめていたかった。

この間 「シンヒプノセラピー」へ行ってからというもの頭に何か霧がかかったようだった。
理屈で考えようとしても 考えられないので ボーっとする時間が増えた。

冷たくなっているガーデン椅子に座り お茶をもう一杯飲もうかと考えた。

そうだ、その前にミナと食べるおやつを買いに行こう。
ミナには ライブチケットをもらって「楽しかった!♪」と喜びを素直に伝えた。
やはり娘は母のことを心配してくれたんだと 嬉しくもなった。
今日はミナが好きな 天城屋のミルクティーラスクを用意してやろうと思った。
天城屋は 天然酵母のパン屋さんで 駅近くにある。
そこの数種類あるラスクの中で ミナはミルクティー、エルは黒糖が好きだった。
いつもミナが小さい頃から二人でおやつを食べてきた。
最近はダイエットか あまり食べなくなったミナだったが
きっと久しぶりに喜んでくれるに違いない。

脳が理論を考えないとき、食の楽しみは 気分の助けになる。

さっそく 自宅を出て 駅近くのパン屋でラスクを買った。

秋の夕暮れの日差しを まともに受ける帰り道だった。
パン屋から数分で ちょうど川べりの橋に出る。
そこを渡って 坂を上がると自宅に帰り着くのだ。

橋は夕日でオレンジ色の光が差し込んでいた。
橋の鉄筋の影が映っていた。
エルがそこを渡り切ろうとしたとき その声はした。

「ねえ、見なかった?さっき見えたんだ。」

びっくりして振り向くと 小さな男の子が立っていた。
小学校一年生くらいで、まっすぐにカットした黒い髪の毛が印象的だった。

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~15P~

「何が見えたの?」
男の子は おもむろに夕空を指差した。
そこには ただ雲が横に広がっているだけだった。
「そうねえ、何も見えないけど。あの雲がきれいって言ってるのかな?」
エルはかわいい話相手にほほ笑んだ。

「なわけないよ。 UFOだよ。最近頻繁に出てくるんだ。あいつらよせばいいのに姿を現してさ」

面食らった話にエルはどう言っていいかわからず「そうなんだ。」とだけささやいて帰ろうとした。

「おばちゃん、見たことあるよね?」

真剣に話すその子を振り返って まじまじとみつめてしまった。
なんでこんなことを こんな幼い子が言うの?
「そうか ボク、物知り博士なんだね。おばちゃん、見たことないなあ。見てみたいけどね。」
「そうじゃないって。覚えてないんだよ。大人ってすぐ忘れちゃうからね。」
「う~ん、そうかもしれないね。フフフ。」
こんな時は 何となく誤魔化して早く帰ろう。
「誤魔化しちゃだめだよ。「何か」を見たことがあるって人沢山いるんだから。」

見透かされた…。

「何か」を見た経験ならエルにもあるし、記憶がほとんどないだけだった。

こんな小さい子に諭されて ちょっと恥ずかしくなったエルは

「そうなんだね、面白い子ね。もう日暮れだから早く家に帰りなさいね。」
そそくさとその場を離れようとするエルに
「あっ、あれだよ!」その子が指差した。

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~16~

空はオレンジに輝いていた。
その雲の影から一筋の 金色の光がシュッと一瞬光った。

「今度は見えたよね?」

真横に立って エルを見上げながらその子は尋ねた。

少しの間声が出なかったが、驚きの表情は隠せなかった。

「あれはね、銀河連邦のだよ。」
おもむろに今しがた光った方向を指差した。
「いい方の宇宙船なんだ。」

「いい方って、悪い方もあるの?」
「うん、悪い地球人と組んで乗っ取ろうとしている方もあるんだ。そいつらは脅かしにやってくる。今見た銀河連邦はそんなやつらを
阻止しようと来ているんだ。」

「あっ、また光った!」
思わずエルが声を上げた。
光ったというより、光を発し続けている。
「UFO自体は見えないんだね。」
やはり 本体を見てみたいものだとエルは思った。
「銀河連邦の方は 原子の振動数が高すぎて 地球の物質とは波長が合いにくいんだ。見せるときは振動を下げているのさ。
今日はきっとあいさつに来てくれたんだ。」
とその男の子は 手を振ってあいさつを返した。

「そうなの?振動数…? 」
頭の理解がしにくいけど 何となくわかった気がした。この子は波動や量子力学について言っているのだろうか。
物質は粒子でできていて、粒であり波の性質を持っている…だっけ?
ミナの学校の研究課題を手伝ったことで 知ったことだった。

「ほら、おばちゃんもあいさつしなよ。きっと喜んでくれるよ。」
言われるがままに 手を振りながら
「ここにいて、わかるかな~?」と首をかしげたエルだった。

「グーグルアースでさえ どんな小さなものでもとらえるんだよ。彼らのテクノロジ―は もっとすごいに決まってるよ。
それに…きっと…わかってるんだ僕たちがここにいることを。」
「はぁ~…」
「会いたいと思ってたんだよ、ずっと。」
と男の子が意味深な言葉を言ったとたん 光は消えた。

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~17P~

エルはこの男の子の方もかなり不思議に思えた。
そういえば 誰かに似ているような気がする。
誰だっけ…? 思いだせないなあ。

「また近いうちに来るってさ。」
エルを正面に見上げて その子は伝えた。
「じゃあ、今度は姿を見せてほしいね。」
本当にそう思えた。エルの13歳の時の記憶が甦ってきた。もしかしたらあの時と同じ光なんじゃないかな。
あの時はとてつもなく遠くから伸びてきた光だったし 円盤は見ていない。
でも 同じような感覚が甦った気がした。
いい方の宇宙人と聞いて安堵したせいもあるかもしれない。エルはこの子の説明で少しだけうれしくなった。
あの時の体験の解明が出来るかもしれない。

「さあ、暗くなってきたよ。もう帰りなさいね。お家の人が心配しているわよ。」
手に持っていたラスクを一つ持たせて、「じゃあね。」と手を振って向きを変えて歩きだした。
自分も帰る時間だ。数歩歩いたところで エルは大事なことを思い出した。
ミルクティーラスクのほうを渡してしまったのだ。「しまった~;」
1、2秒躊躇したが やっぱりそのために買いに来たことを思い出した。
「ミナが怒るわね。やっぱり買いに戻ろう。」苦笑しながら もう一度橋の方を向いて歩きだそうとしたときハッとした。
もうそこには誰もいなかった。さっきの子は? 誰一人いない一直線に駅に続く一本道を 遠くまで見つめた。
不思議な子ね~とため息が出た。
そうだ! 思いだした。誰ってあの子 あの映画の主人公にそっくりじゃない。
「宇宙映画スタートレックの ミスタースポックにね。」そう呟いた。

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~18P~

ミナは銀座のパーラーで、携帯を見ながらフルーツティーを飲んでいた。
本日のティーをオーダーしたら、マンゴーの薫りのお茶がティーポットと一緒にやってきた。

今しがた来た彼からのメールを、ニヤリとして見つめていた。
彼は仁(ヒトシ)という名で この前初デートしたばかりだった。
その時は、例のイタリアンに連れて行ってくれて、あと新宿の高級バーにも連れてくれた。
まるでお姫様のように扱ってくれて、最後にタクシーで家のそばまで送ってくれた。
タクシーを降りるとき、自分もサッと降りて帰るミナを見届けてくれた。

もし二十歳までのミナならもうそれだけで感動して、宙に昇るような気持ちだったに違いない。

でも同じ同僚でモテる娘(こ)の話をいつも聞かされているミナは タクシーの件にしても
高級バーの件にしても あたりまえじゃないの…と思っていた。
それよりもっとじらしてみなさいよ、とアドバイスされていた。
遊びかどうかそれからわかるらしい。

男性に慣れていないミナにとって、その同僚のアドバイスは貴重だった。

メールでは、今待ち合わせ場所に来ていると連絡があった。
さあて、ここからどれ位待たせようかな。
30分では早いかなあ、でもそれ以上だと帰られてしまった時の落胆が残る。
どうしよう…と考えていたら、携帯が鳴った。
上司の雨宮だ。もしかしたら、ミスをしてしまったんだろうか?
おそるおそる電話に出ると「もう、帰ってるのかい?」と緊迫したようでもない感じだった。
「いえ、今はまだです。」
「じゃあちょっと夕飯付き合わない?会社を出たとこなんだけど。」
上司からこんな誘いは初めてだった。雨宮は十歳くらい年上の独身のやり手課長だった。
どちらかというと男性に受けが良くて、女性にも同じようにきびしい。
それは仕事熱心で、部下と会社を思っていることは皆が分かっていた。
だから 会社内外どの人にも人気があった。ミナも仕事上の憧れだった。
そんな上司から誘いがあったら断るわけにはいかない気がした。

「わかりました。」
早速ヒトシに 急用での断りメールを入れ、待ち合わせ場所に向かったミナだった。

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   ~19~

和食と名のつく場所もいろいろあるけど、此処は料亭の奥座敷だった。
美味しい料理と上質の日本酒を飲んで、ミナはちょっと酔いが回ってきた。
「高富君、大丈夫かい?」
雨宮はミナを心配そうに見つめた。
「ハイ、ダイジョブですよ~。」ミナはフワッとして訳が分からないけど楽しくなっている。
「でもこんなおいしいところ知ってるなあんて、雨宮さんの彼女はいいですね。」
「彼女はいないよ。たまにここの料理が食べたくなるんだよ。でも今日は高富君を連れてきたいと思ったんだ。」
真正面に見つめられてミナは酔いで真っ赤になっている顔がもっと火照るのを感じた。

それからその店を出た二人は、ずっと無言のまま歩いていた。
とにかく今日は調子に乗っていつも飲まない日本酒を飲み過ぎた。
ミナは段々気分も悪くなってきた。
「どうしたの?大丈夫?」
もう限界だった。雨宮に気遣ってもらわなければ醜態をさらしていただろう。
結局その後雨宮に家まで送ってもらい 何とかふらつく足でエレベーターに乗った。

何度も鳴るチャイムに エルがあわててドアを開けるとそこにはお酒に酔ったミナがいた。
それも男性と一緒。エルは目が飛び出しそうだったが、きわめて冷静にお礼を述べてその上司をお見送りした。

「ミナちゃん大丈夫?」
ミナのこんな姿を見たことがないエルは 少し狼狽した。

ミナを介抱して寝室で眠らせてから、エルは横に座りミナを見つめていた。
そうか、この子はもう大人なんだなあ。お酒も飲むし、男性とデートもする。
モテナイことを心配していたら、今度は付き合う心配も出てきた。
止むことがないのが子育てなんだと つやのあるミナの髪の毛をやさしく撫でた。

:..。o○☆゚・:,。 天の川銀河からの贈り物~Ⅰ:..。o○☆

~20P~

翌朝目覚めたミナの携帯には ヒトシからの着信とメールが入っていた。
ミナにスッポカされたのがショックだったらしく、次回の約束だとかの催促だった。
頭が痛くて 返事どころではなかった。幸い今日はお休みの日。ゆっくり寝ていよう。

ミナが起きてきたのは お昼をとっくにまわった3時だった。

「大丈夫なの?」心配したエルは 顔色を眺めた。
「…うん だいぶましになった。」

「昨日の上司の人、名前なんだっけ?」
「ああ、雨宮さんね。」
「おつきあいしてるの?」
聞きたくてウズウズしていたことを聞いてみた。

「何もないよ。ちょっと誘われただけよ。」ミナはブスっと答えた。
ミナはこの頃あまり自分のことを話してくれなくなった。それは大人になっていることの証なのだが
いつも二人で生活を共にしてきたエルにとっては淋しいことだった。
子供を付属しているかのように扱った覚えはない。むしろいろいろと心にかけて話を聞いてきたつもりだ。
だが親の役目の終わりは近いのだろうか…そんなことも考えてしまうのだった。

今日のミナはあきらかにいつもと違っていた。なぜなのかはミナも分からない。でも気持ちがイライラするのだ。
吐き気がするとミナは食事をしなかった。

「じゃああとで雑炊でも作るわね。それとあなたの好きなミルクティーラスクを買って来たわよ。」

うれしげに 袋を見せるエルに 気分のすぐれないミナは腹が立った。
「いらない。ミルクティーラスク、大嫌いだって知ってた?  もう持ってこないで。」
「だって 小さい時から好きで あそこのほら、天城屋のは特に美味しいって…」

「だから嘘よ! はじめはおいしかったけど 途中であまり食べるから嫌いになったの。」

もう言わせないでよというミナの反抗的な態度にビックリしたエルは
「でも…でも いつも食べてたじゃない…。」と小さい声で呟いた。

「あれは・・・部屋に帰って捨ててたんだよ。学校のカバンに入れてね。」

エルは絶句するしかなかった。こんな仕打ちは経験したことがなかった。
いつも手塩にかけてきた娘だった。それなのに、この状況は何?
ショックで固まったエルをしり目に ミナは自分の部屋の戸をバタン!と閉めた。

:..。o○☆゚・:,。 天の川銀河からの贈り物~Ⅰ:..。o○☆

~21~

またもやこの家で信じられないことがあった。茫然自失したエルだった。
その時、夫の寝室の戸が開いた。
「何なんだ、うるさいな!静かにしろ。」
と怒りをぶちまけた声がした。
そしてキッチンにくるなり、水を飲み始めた。

「今ミナが…。」「ミナがどうした。」「おかしいの、反抗して。」
「そりゃあ虫の居所の悪い時もあるさ。そんなことでいちいち動揺なんかしてどうなる。
そのうち機嫌も治るさ。」
それはそうかもしれない。でもいつもと違うミナだった。なのに夫は分かろうとしない。
「でもいつもと違う気がするの。」「どう違うんだ?」「どうって…」それを言われても どう表現していいかわからなかった。
いつものミナを良く知っているのは エルだけだった。もちろん父と子なんだからミナの性格は夫にだってわかるだろう。
でも そのニュアンスの違いを説明しろと頭ごなしに言われても言えないのだった。

「ねえ、あなたが今ちょっと話を聞いてやってくれない? もしかしたら何か言えずにいたのかもしれないし。」
「なんだ、もう子供じゃないんだから。諭す年でもないだろう。明日早いしデスクワークも残っているんだがね。」
苦々しく話す夫に もう希望は持てない気がした。
いまミナと話してもらっても あまりよい成果は得られないと思った。

「あなたはいつでも 家庭はほったらかしよね。たった今必要な時にいつもいなかった。今もいないのと同じね。」
「何なんだ、その言い草は! わかったよ、話して聞かせてやる!」
言うや否や ミナの部屋へと行きかけた夫を そのままミナに相対させるわけにはいかないと思った。
「もういいわよ!」
大きな声で 夫に先回りしてミナの部屋のドアの前に立った。

結局 それぞれがそれぞれの部屋に散らばった。
エルはもう考える気力もないまま 小さいショルダーバックだけ抱えて家を出た。

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~22P~

思いつきで出てきたけど、ショルダーにはおカネ入っていたっけ?
中を開けると、少しのおカネとアロマのスプレー瓶が出てきた。
あ…これミナが母の日に作ってくれたアロマの香水スプレーだ…とまた悲しみが襲ってきた。
あんなに優しい、あんなに素直な、親思いの子だったはずなのに。
シュッと吹き付けると
エルの大好きなローズを基調にした優しい薫りが漂って、プレゼントしてくれたことがもうすでに懐かしく思えることが淋しくてたまらなかった。

エルはフラフラと駅への道を歩いていた。どこへいこうかノープランだった。
やっぱりサイコに連絡してみよう、そう思って電話したが留守のようだった。
いいわ、マンションまで行ってどこかで待ってみよう。

電車に乗って サイコの住む駅へ降りた。 サイコは乗り継いで30分のところに住んでいる。
近くにはもうしまっている喫茶店しかなかった。コーヒーショップは表通りにあったはず。
そう思っているとサイコから電話があった。
「どうしたの?」「あなたに会いたくて。今どこにいるの?」
「わー、ゴメンねえ。どうしよう、今横浜なのよ。終電までに帰るつもりなんだ。」
待っていてると言ってもよかった。でもふと今日は帰ろうという気になった。

人は何か不思議な縁を感じるときというものがある。
第六感とか 何かのひらめきというか。そんな感覚を常に持っているエルは今来た道を引き返していた。

もとの駅に降りて、家路をゆっくり歩いていると橋にさしかかった。
今は真っ暗で川はうす明りだけを揺らしている。
その中に キラキラ光るものが見えた気がした。
ハッと空を見上げた時だった。あの光が、昔に遭遇した遠くからの光が 星を超えて成層圏を超えて
近くの神社の林の方へと伸びていたのを見た。

エルはすぐさま行ってみた。
暗い木々を抜けて光の方へ。あのときのように光は待っている気がした。
そうだった。あの時も光の中で何かを感じた。エルは怖さよりも興味の方が強くなっていた。
光は木々の葉を抜けるように差し込んでいて 手を差し伸べてみた。
少し暖かいきがしたが 感覚はなかった。ただ黄金の光が皮膚を照らしていた。
見上げるとまぶしくて見てとれないことに気付いた。光の中に入らなければいけない気がした。
そこは ひかりそのものだったが 遠くから何か聞こえた。と同時に不思議と頭の中に鳴り響いた。
音楽なのか言葉か判断する間もなく 意識が遠くなっていた。

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~23P~

気付くとそこはエルの仕事部屋だった。
小さいソファの上でいつの間にか寝ていたエルだった。
朝のスズメの鳴き声で目を覚ましたのだ。

昨日の夜のことはしっかり覚えていた。そう 光の中に入るまでは。そしてまた記憶が飛んだ。
でも おだやかな気持ちでいることに気付いていた。
昨夜の荒れ狂った気持ちで家を出たときとは 全然違った。

キッチンに行くと 夫が起きて準備していた。
何でもないように動く二人。そしてミナが起きてきた。おはようのあいさつはない。エルも言えなかった。
テレビの朝の番組の音だけが ずっと鳴っていた。

昼過ぎに サイコは来てくれた。

「どうしたのかと心配したよー。ホントにもう。」
「仕事は?」エルはうれしかったが サイコにあまり迷惑をかけてはいけないと考えた。
「今日午後のキャンセルがあって、また夜に入ってるからその間に来たのよ。で、大丈夫?」
「うん、一晩寝たからね。状態はあまり変わってないというか、よけい酷くなってるみたいだけどね。」
「エルこそアロマの仕事は?お客さんは今日来ないの?」

「あれから、主人と言いあってから、予約取ってないの。馬鹿みたいねえ~、そんなことに左右されるのよね。
所詮 おこずかい稼ぎなんだね。」
「ちょっと、自分のことそんな風にいうのやめなさいよ。 精いっぱいのことしてるよ、エルは。」
なんか泣きそうになった。ミナのことも一番相談したかったことだ。
「そうだったんだね。やっぱり…。」「やっぱりって…何か知ってたの?」怪訝な顔をしてサイコを眺めた。
「いや、感じたんだけど。ミナちゃん良い子してきたんだよ。エルのこと見ててさ~。自分が我慢しちゃったんじゃないかな。
見えないけど 空気は感じるのよ子供はね。それでお母さんもお父さんも何か偏ってるとさ~自分がいい子でいると
家族は上手くいくって思うんだろうなあ。でもある時、そんな努力というか我慢してても どうにもなってないって気付くんじゃない?
だってそれは夫婦の問題だからね。子供が間に入って上手くいくときと 根本的にそうでないときもあるじゃんか。」

ああサイコはやっぱり私より精神年齢が上だとエルは思った。
「ヒプノは結構大変な情報を与えてくれたのよ。」
あの後 サイコには何も話していなかった。今日は良い機会なので 聞いてみようと思った。
「私たち夫婦はやっぱり過去世で関係があったのではと思うの。それも 恨み恨まれてるという、ぞっとする関係だったのがやっぱりショックだわ。」
「そうねえ~でもそんなことはよくある話だよ。だからそこからどう生きるのって話でしょ?いつまでも恨まれて いつまでも恨んでいるのってこと。」

「わかっているけど、じゃあどうしたらいいの?今までみたいな生活にまた戻って、表面だけをつくろって生きて行くの?そんなのいやだな。」
「もしそういう風に思うなら、思ったように行動してみたらいいと思うよ。自分の胸にあるハートに聞いてみて。」
何かそういわれると 霧がかかった景色みたいに、物事を考えたくなくなるのだった。これ以上考え事は増やしたくなかった。
とりあえず、昨日の光のことはサイコには 黙っていよう。

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      ~1P~

ムネトモは 東京の自分のオフィスにいた。
これからアメリカへ発たなければならなかった。

ロスを拠点にバンド活動をしていて、ビジネスとして度々帰国していたムネトモは、今のうちに出来るだけ仕事を片付けたかった。
先日の妖気楼のライブ出演は、仕事の前宣伝も兼ねていて、これから日本で新商品の紹介のプロモーションをしたいと考えていた。
それにバンドの中の一人を可愛がっていて、彼の応援でもあったのだ。

自分のデスクに腰をかけて書類に取り掛かろうとしたとき、目の前の写真に目がいった。
写真は全部で3つある。一つは弟と父との写真。もうひとつは弟一人。そして母も入った家族四人の写真。
その写真を見つめるたび、いつも手が止まった。
弟一弥と父は十年前、交通事故でこの世を去っていた。二人で買い物に出かけた途中、ガードレールから崖に突っ込んだのだった。
父は大企業の取締役で、事業は順調だった。弟は二十歳になりたての、音楽とおしゃれと学生生活を謳歌する青春の只中にいた。
それなのに…とムネトモはいつも悔しさと悲しみでどうしようもなくなるのだった。

弟は十歳違いで生まれてきた、待ちに待った兄弟だったので ムネトモはこの上なくかわいがった。
背が高くどちらかというと筋肉のバランスを程よく持った兄と同じく、同年代の中でもかなり目立つ存在だった。
自分が音楽を始めると、見よう見まねでギターを弾いたり、兄貴のCDをいつも持ちだして聞いたりしたことが懐かしく思いだされる。
彼一人の写真は、彼のファッションセンス溢れる服装でどこかのモデルのようにも見える。
兄と同じミュージシャンを目指していて、ジュエリーのセンスも抜群だった。
「きっと彼ならこんなジュエリーをつけたがるだろうな」 ムネトモは亡き弟が喜ぶようなジュエリーを創りたいと思いそれを販売する
会社を創設したのだった。

★゚・:,。゚・:,。☆天の川銀河からの贈り物~音の魔法~★゚・:,。゚・:,。☆

  ~2P~

デスクの整理をしていると、個人用の携帯が鳴った。
見ると、バンドメンバーのミシェルからだった。
ミシェルはアメリカ国籍だがイギリスとのハーフらしく日本留学の経験もあり、ムネトモとはなるべく日本語で話してくれていた。

「ハーイ、どうしてるの?」「今仕事を片付けてすぐそっちへ行くよ。」
「明日スターライツの取締役がこっちのスタジオに来るから、顔を出して欲しいんだ。その後、食事にでも行かない?」
「OK,なるべく早く行けるようにするよ。」
プロダクションのお偉方が話しに来るようである。ナップグランドはこれから世界ツアーを半年後に控えている。
そのツアーが決まった時、メンバーの皆は喜びに沸いた。皆の念願がかなったときだった。

ムネトモは二十歳の時からバンドを組み、メジャーデビューしてすぐにトップスターになった。
そのバンドが解散した30歳から五年間ずっとソロでやってきた。そのかたわら会社を興して、40歳になった今やファッション界のリーダー的存在でもある。
現在のバンドに加わったのは、ミシェルの口利きがあったからだった。
会社を経営しているとはいえ、根っから音楽をこよなく愛していたムネトモは、やはりライフワークとして音楽に関わりたいと思っていた。
それが、世界で活動できるのだ。そのことに感謝してもしきれなかった。
いわばミシェルには恩義があった。ミシェルの方でも年上で以前のファンだったバンドのギタリストのムネトモと同じバンドで演奏できるなんて
夢みたいだった。
そして 二人とも世界の大きな舞台に立つことが同じ夢となった。
それが叶うことになって、一番喜んでいたのはミシェルかもしれなかった。ムネトモを引っ張って、バンドに特徴を出して人気を増した戦略も
ミシェルが考えた。それほどムネトモはカリスマ的存在だった。彼を引き入れてから、他のメンバーも何か向上心ややる気が出てきたみたいだった。
ムネトモの音楽への情熱に皆感化されたのだった。

★゚・:,。゚・:,。☆天の川銀河からの贈り物~音の魔法~★゚・:,。゚・:,。☆

~3P~

やっとのことで仕事を片付けて、さっさと飛行機に乗りこんだムネトモは、お腹がすいていたのに気づいた。
そういえば、朝食だけだった。機内食とワインを飲んだらあとは勝手に睡魔が襲ってきた。
忙しいという思いは持つことはなかった。むしろ仕事や用事で時間を費やしているといらぬことを考える時間はなかった。
ただ、音楽を創る時間はゆっくり持ちたいと考えていた。ロスでは音とともに体も心も浸っていたいと思った。

いつものスタジオにメンバーは集まった。
ムネトモは皆に会いたかった。ミシェルは金髪の美形で細くて白い手足を動かすとき、女性みたいなしなやかさを醸し出す。
長身でイギリス人のベース担当のレナード、天然アフロでアメリカ人のケリーはものすごいドラムパフォーマンスをしてくれる。
あと器用でギターや歌もこなす最年少25歳の靖(ヤス)は小柄ながらロック界のブルースリーみたいに格闘家型のスタイルだ。彼はアメリカ国籍だが日系二世で、
親戚は皆日本人だという。
スタジオでは 仕事仲間数人と新しい顔が何人かいたが、スタッフが入れ替わったのだろう。皆がいる部屋へ行こうと入口のドアを開けて奥へ進もうとしたとき、
すれ違った顔があった。軽く会釈を交わしたのは、相手が日本人だったからだが、ムネトモはその顔をどこかで見たと思った。
そう、確かに見覚えのあるかおだった。どこだろう、思いだせないがその白髪の60歳前後の男性は痩せてとても知的な雰囲気を醸し出していた。

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 ~4P~

ムネトモが部屋に入ってしばらくしてからミシェルとレナードはギターを鳴らし始めた。
アンプに時々ノイズが入る。自分ならこう鳴らすという思いが頭の中を占めだすと、もういてもたってもいられない。
体は勝手にしまい込んである自らのギターを抱え、同じ曲に同調し始める。
皆が 無言で演奏し始める。ボーカルのミシェルが歌い出す。全員がフルのプロフェッショナルな音を全力投球する。
今度のツアーの演奏曲はすでに決まっているのだった。
そんなスタジオでの時間はまたたく間に過ぎて行った。「少し休憩しようか。お偉方が来たみたいだし。」
そんな声が出て、5人は別室へと移った。
そこにはスターライツの取締役ジョージとマネージャ―たちがいた。

「ツアー曲なんだけど、もう2曲ほど新曲を入れることにしたい。ミシェルにはもう頼んで創ってもらってある。
その曲を入れたアルバムもツアーに向け得て先行発売にする。」
聞いていなかったことだった。あと2曲の追加分をすでに作成していたのか…いつ?
はじめて聞く話に疑問が湧いてきた ムネトモだった。ヤスもまた一瞬驚いたようなしぐさをしていた。
あとの三人は ニンマリとお互いを見つめあってる。何だか変な雰囲気だった。

「そして、ムネトモにはギターソロとオリジナルを披露してもらうよ。頑張ってくれたまえ。」
そうお偉いさんに肩を揺さぶられて、それは嬉しいことだと喜んだ。
一人ソロでパフォーマンスなんて、実力と人気がなければできないことだった。
なんだかんだ言っても、上手く采配してくれたんだ。ただヤスの暗い顔が気にはなった。
ヤスはムネトモや他の皆よりも年下だったし、どちらかと言えば後輩筋にあたるため 今度のことにも文句をつけるような奴ではない。
しかし、顔が引きつってきたように見えたのは自分だけなのか。他のメンバーは、笑顔のままこちらにウィンクしたりしている。

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~5P~

「セッション終われば、ちょっと付き合わない?」これまた上機嫌のミシェルが誘ってきた。

ムネトモはミシェルの家へと車を走らせた。過去に一度来た郊外にある立派なお屋敷だった。
高級なシャンパンをついでもらいながら 二人はお互いのポジションを祝った。
ミシェルはムネトモのソロを楽しみだと言った。彼の音楽性がムネトモと似ていたのは 彼がムネトモに似せたいと思っていたこともあるようだった。
だが今度は、一人で曲をナップグランドらしいのを創ったという。
「すばらしいツアーになるように。」「本当に、でも曲はどうやってつくったんだい? まるで極端に ヘビーダークな歌詞と平和の歌だな。」
「そうだろう!」ミシェルは突然嬉しそうに大きな声を上げた。「その極端に俺たちナップグランドはいるのさ。イメージは天から与えられる。
天の神、創造の世界からだよ、ムネトモ。君も一緒にその世界へ行ってみないか?ハハハハハ~!」
ミシェルはかなり酔っ払ってきているようだった。そしてバルコニーへと促して移動した後、神妙な顔つきになった。
「究極の栄光は究極の転落、究極の善は、究極の悪ってね。」横を向いていたミシェルの青白い顔が、月明かりに照らされて尚更白く映っている。
「口ではみんな平和を謳いながら、心は自分のことだけさ。表面は天使、中身は悪魔と同等…いうことなのさ。」
だいぶ酔いが回ってきたらしい。「なあ、ムネトモ話があるんだが…君をもっと近くに近づけたいと思ってるんだ。僕らの…」
と、こちらを向いた目が血走ったミシェルのこんな不気味な顔は見たことがなかった。ムネトモはゾクッとした悪感が走った。
なぜかもうこの場を離れたいと思った矢先、携帯が鳴った。

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~6P~

「ちょっと失礼する。」といってムネトモが電話に出た相手はヤスだった。「黙って聞いてほしい。」開口一番にそうくぎを刺してから、
「今多分ミシェルと一緒だと思います。これからはイエスかノーかで答えてください。」ムネトモは「イエス。」と答えた。
「では、お願いですから何も聞かないし言わないで、すぐに会いたいです。もちろんミシェルには内緒で。」
ヤスの尋常ではない内容に一瞬迷ったが、「OK、イエス、しょうがないなあ。」とまるで誰かに何かを無理に頼まれてる様子を演じた。
電話を切って、「すまない、自分の会社の仕事で急用ができたんだ。こちらのスタッフに会いに行かないといけなくなった。」
とミシェルの家を急いで後にしたムネトモだった。

待ち合わせ場所のスタバの奥に ヤスはいた。どうも今日のスタジオでの様子も気になっていたのだが、今はどうなんだろうと心配になった。
目を合わすと、ニコリともせず、真剣な顔つきでムネトモを見つめた。「いったいどうしたんだい?」
ヤスは「こんなこと言いたくないんですけど。」と ムネトモの顔色を伺ってから、続けた。「かなりヤバいことになってます。」

ムネトモは何が何だかわからないという顔つきをした。
「ミシェルは近頃変だと思いませんか? 以前より顔つきも違うような…。」「う…ん?そうかな。気がつかないけど。」
「ムネトモさん。」急にかしこまってヤスは続けた。「ミシェルは秘密組織に入っているようなんです。」「えっ、秘密組織ってあの…。」
「いろいろあるみたいなんですけど、どうも闇の権力とか言われているところに入っているようなんです。」
「つまり…。」「そうサタニストなんです。」「悪魔崇拝…か?まさか。」ムネトモは笑おうとしたが、ひきつるのが分かった。

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  ~7~

「知り合いのジャーナリストから聞いた確かな情報です。後の二人もそうだということでした。」「…まさか…」口を開けばそんな言葉しか出てこない。余りにも突然の報告であった。
「ミシェルの親元、ケネス家のことは?もし知らないならネットで調べてください。ミシェルはハーフでアメリカの血が入っていますが、そちらの家系名を使っているようです。
でも元々イングランドでの名家が親せき筋なんですよ。」
「信じられない…。じゃあ仮にそうだとして、いったい何があるっていうんだ?」
「今回のツアーに何か仕込むつもりみたいなんです。ミシェルは音楽活動をとおして何かのミッションを持っているはずなんですが…。」

それにしても、ミシェルのおとなしくて慈悲に溢れる気性を知っているだけに、どうしたらそのような闇と結びつくのかわからなかった。

「自分にはその内容はよくわからないが、これだけは言えると思う。」ムネトモは続けた。
「今まで弟や父を亡くしてこの人生を恨んだことはある。でも、そんなときでも何かに頼ろうとは思わなかった。
これは何か与えられたもの、自分で人生を選んだことだという気がしたから。そして…、最近ようやく気付いたんだ。今はいない人たちへの思いをね。
その「愛」は消えるものではなく、というか、その「愛」だけがこの世の真実なんだとそう思うようになったんだ。だから…何があっても
自分の音楽はその「魂への愛」を表現したいと思っている。」
「でもやつらは…。」「今は出来ることを、やりきるしかない。ちょっと冷静になって考えてみよう。」
そう言って腕を組んだムネトモは、「あっ」とつぶやいた。

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ロスに帰りスタジオへ行って あの顔見知りの白髪の学者風紳士とすれ違った。その後、部屋のドアを開けようとしたら何気なく会話が聞こえたので立ち止まったことがあった。
その時、ハッキリとは認識できなかったが、ミシェルとレナードとの「データを隠して…。」「表面で悟られないようにするには…」といった変な会話が聞こえたのを思い出した。
何を言っているのか、またジョークでも言ってるのかと気に留めなかった。ドアをノックして入ったときの三人の顔は確かに妙だった。あきらかに驚いていたようだから。
「そういえば三人とも 日本からこちらに来てスタジオに入ったときに、おかしなことを話していたな。」

「それは、レコーディングと関係あるかもしれませんね、あの学者さんはミシェルが呼んだそうです。オーディオデータか何かのことだと思います。」
「分かった…、それも調べてみるよ。でもヤス、どうして君はそんなことに興味を持ち始めたんだい?」はじめて湧いてきた疑問をぶつけた。
「それは…。今言えるのは、興味を持って調べるとこのことに突き当たったということです。今はそれしか言いたくありません…。もし」「もし?」
「もし確信をつかめたときに、それを伝えます。」

スタバから出たムネトモは 気が重かった。ついこの前までは自分の音楽生活は純粋で、精神の偏りを取り戻してくれるものだった。

ロスでの自宅は7階に借りていた。リビングルームはとても広くて大きなテラスがあり、片隅にお気に入りのギターが置いてある。
その横に事務の雑用をするデスクがあった。
帰るなり、ムネトモはそこに座りパソコンを開けた。ずっとネットを目で追っていると、かなりの数でヒットした。
ミシェルは自分のことは隠しているらしいが、系統の家系は公然の家柄だった。
ケネス家は秘密組織でもかなり高位の立場にあるらしかった。歴史は古くてバビロニアに遡る。まぎれもない秘密結社に属した家系だ。
それにしても以前のミシェルの純粋な言動からミシェルがその中にいるなんて…とても信じられなかった。

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  ~~

そしてもう一つのキイワードを当てはめてみた。「データ 隠す」
そうするとこれまたかなりな数でヒットした。 それは隠しデータ、データハイディングと呼ばれるものだった。そして名前を思いだせない学者紳士は
その権威だと日本の大学サイトに顔つきのプロフィールがあった。
どこかで見たことがあるのは、「音の研究者」としてとある音楽素材の特集番組にテレビに出演していたからだったことを思い出した。
ムネトモはミュージシャンとしてその後の出番ですれ違いのような形であったが収録の時に出会ったのだった。

オーディオデータハイディングとは なんらかのデータ(メディアCD,DVDなどの媒体)の中に別のデータを隠すことをいう
最近では音に付加価値となる情報を埋め込み、その音を受け取る側で埋め込まれたデータを利用する方法などがある
鳴らす音の中に QRコードも埋め込めるし カラオケだって音が流れると歌詞が表示できたりもするし違法コピーも防止したり追及できるが 
ただ新しい研究でまだまだ確立できていない部分もあるらしい。

それをもっと進化させつつあるのが、さきの学者紳士である佐伯教授だった。教授の研究成果についてはまだ未知数で、結果報告もされていなかった。
だが、研究成果はある程度でているのではないかと ムネトモは感じた。でなかったら、ミシェルたちが雇うことはない。その研究された成果を直接今度のレコーディングに
かけると考えた方が常識的だった。その研究とは、データハイディングしながらマインドコントロールできるようなサブリミナルな信号を入れることだった。
そのデータをなんらかのスピーカーで聴いた者は、多かれ少なかれそのコントロールの術にハマってしまうというようなものだ。
そうなれば、いわゆるゲームの中の戦いみたいに、自分の命も顧みず命令で戦争にも進んでいくような人間が出来上がる。
もしくは、操られながらも感情もないゾンビと化し何をするにも無感動、無表情になっていくかもしれない。

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想像しても背筋が凍るような陰謀だ。こんなことを本当に彼らはしようとしているのか?
そしてその音楽を広める役割をするのが まさか自分なんだとは考えたくもなかった。
あまり突然で大きな思惑の中で どうすることもできないでいたムネトモとヤスだった。直接ミシェルたちに乗りこんでやめろと言ったら
こちらの命さえ危うくなる、とヤスに注意されていた。命あっての反陰謀活動なのだ。彼ら秘密結社にとっては世界に人気のあるムネトモとて、消すのはたやすいだろうし
メンバーの代わりはいくらでもいるだろう。

レコーディングの当日になっていた。浮かぬ気持ちとは反対にプロとして常に正確さとより以上の実力を発揮できなくてはいけない。
そのジレンマが襲ってきた日だった。 
「その先に何があるのかわからないけど、最高の演奏とそしてリスナーへの最高の愛を思いながらやり切りますよ。」とヤスは言った。
ムネトモも同じ気持ちだった。 この世界へ、そして応援してくれるファンの人々への想いだけは込めたかったのだ。

何とかレコーディングも乗り切ったあと、ミシェルにそれとなく佐伯教授のこのスタジオでの仕事を知らぬふりで尋ねた。
「ああ、彼ね。これから活躍してくれる人だよ。」「この前顔を見て思いだしたんだけど、データの権威らしいね?」としらじらしく聞いた。
「そうだよ、知ってた? 音源を素晴らしいものにしてくれるよ。」うれしげにミシェルは言った。

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「一度テレビ番組で共演したことがあるよ。といっても会話を交わしたわけではないけどね。」ムネトモはミシェルの顔色を伺った。
ミシェルは平然として言い放った。「彼の新しい研究成果が素晴らしかったんだよ。
ただ隠しデータを埋め込むだけでなく、ちょっとした魔法を使えるんだ。」
「それって音源に不都合が起こるんではないだろうね?」
「音源には何も起こらないよ。リスナーはどうなるか知らないけどね。」意味深な言い方をしたミシェルにもう一歩突っ込んでみた。
「まさか このバンドのプロパガンダか何かを刷りこまないだろうね?」
「ハハハ! 何だってこのバンドの?そんなもんじゃないよ。もっと大きな地球規模の志を伝えるだけさ。」
真顔で鋭く目を見つめて そうミシェルは言い放った。「そんなのは少なくとも自分たちの音楽じゃない、純粋な想いじゃない!」
ムキになって挑むように見つめ返したムネトモだった。
「純粋? ただ演奏される音楽はそうかもしれない。でもいいかいこれはショービジネスなんだよ。ビジネス! そして」ミシェルは人差し指をムネトモの胸元に突き付けて
一段とするどくくぎを刺した。「音楽こそが無意識に人を動かせる道具なのさ。それを俺たちは使うだけのことさ。」 今までの同じ道を歩んできたと思っていた友のことばとは随分違っていた。
それは魂を売り渡した というにふさわしい言動なのだとムネトモは恐怖というより悲しさが先に立ってしまった。
その日家に帰ってからデータハイディングのことを持ちだして、批判したことを少し後悔した。ミシェルは何か気付いただろうか。
とにかく今はあいつらに気付かれずに、何か対策を考えなくてはと、希望だけは繋げているつもりだった。

★゚・:,。゚・:,。☆天の川銀河からの贈り物~音の魔法~★゚・:,。゚・:,。☆
   
  ~~

だが、今のままでは何もどうすることもできない。この苦悩は身内を事故で亡くしたようなものとは違った。自分や周りが置かれている状況にどうしようもない
恐怖がまとわりついていた。 
「クソッ!」それは何もできない自分自身への怒りだった。 
いつもは内なる情熱とは裏腹に冷静で知的なムネトモだったが、疲れ切った心身を持て余していた。

ストレスを感じるといつもバルコニーに出て、星を見るのがムネトモ流の唯一の瞑想時間だった。
幼い頃から天の川が特に気に入って、ずっと長い時間見つめているような子供だった。その天の川も見ることのできない夜空。こんな夜空を現代人は普通の空だと思っている。
今頃プラネタリウムでしか真実に近い星空は見えないけど、それを見ると昔からワクワクしてしまう自分。 まるでそこで遊んだり、星間を飛び回ったりしたような気分を感じるのだ。
「前世は宇宙人かな。」そんな空想で気を晴らしていると、急に目の前にパアーっと光が現れた。
それは余りにも急でものすごい光だった。手で目隠ししても、光は自分の細胞全てを照らし出していくかのようだった。
その光に慣れてくると、先を見たくなった。恐る恐る手をおろし、目を見つめて行くと、頭長から体の中にまで光が入ってきて気が遠くなっていった。かすかに覚えているのは、
ほのかなローズの入った香水のような香りと、暖かい気流を感じていたことだった。

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  ~~

携帯の音で目覚めたのは、フロアーの床だった。ゆうべの記憶が飛んでいた。頭が少し重たい感じがするが、思ったより爽快感がある。
「ムネトモさん。少し気になることができました。」ヤスからだった。「ああ…何だい…。」「どうもデータハイディングだけでなくジャケットにシンボルを
埋め込むつもりみたいです。」「どういうこと?」「つまり、目で見て無意識に悪につながるマークとかです。それは彼らの仲間だという情報のデザイナーに直接見せてもらいました。
見えにくい場所に形のデザインとしてやシンボルを置いて、脳に直接インプットするような感じですね。」
「そうなれば?」「そうなったら、脳は直接的な言葉を用いなくても、シンボルを理解してそのメッセージをつかみ取るという具合ですね。まだ純粋で無防備な若者たちなんかには
ストレートに効くんじゃないですか。」

「う…ん、そこまでするのか…無意識の洗脳と同じだな。そうやってリスナーを次第に「悪の意識」に目覚めさすつもりなのか?…なんとか阻止できないか考えてみるよ。」そう言ったムネトモだったが巨大な歴史を持つ組織へ付け焼刃的なことが通じるはずはないことは承知だった。

フラフラと立ちあがり、思いつくキイワードをパソコンに入力してみた。インターネットでそのワードは1件ヒットした。何故か調べることも自分で分かっているようだった。
どうも昨日のあの光から、脳が目覚めたのか?…頭が妙に冴えているのに気づいていた。それにしても不思議な体験だった………っと「宇宙の砂~研究所」これだ、あったぞ!
内容も何故か大したことは書いていないのに、此処へ行けば何かあると確信めいた思いが湧いている。
「ともかく例えこの一分後に絶望が起こるかもしれなくても希望は持ち続けるぞ!」 そう気合いを入れてドアを後にした。

車でさがしに探した住所は なんと郊外の湖のそばのトレーラーハウスだった。持ち合わせた希望の炎はとたんに小さくなった。
「さっき電話した者ですが。」 ドアをノックして挨拶をした。 出てきたのはどこから見てもケンカに強そうな筋肉マン、長髪とひげとネルシャツにブルージーンのマイクだった。
「例のものをご希望で?」 

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「詳しい説明と実物を見せていただきたいのですが。」 そう言うと、ではついて来るようにと車に乗らされた。どこへ行くのだろうと怪しげな態度に
何か武器でも持っていればよかったかな と考えたムネトモだった。
着いたのはさっきのところから20分位の山奥だった。その建物は普通の家だったが、中に入ると地下へ続く階段があった。ますます怪しいぞ…と身構えたが
こうなったら行くしかない。 降りたところは地下にある実験室のようなとてつもなく広い場所だった。
ほぼ円形のフロアだが八角形を形どって、八つのドアがあった。その一つへ入れとマイクが首をかしげた。ノックして入ると、そこにいたのはマイクとは全然別の人種に思えるような
色の白い逆三角形の輪郭の目の大きい男だった。背が子供のように小さくて、ダブダブの黒いパーカーから覗いた手は指が細くて白い。それはまるでロウのようだった。
「これのことですかね。」その男は聞きとりにくい声で尋ねた。見せてくれたのは黒っぽい鉱物で、大小を手のひらに乗せてもらった。
「これが、例の…。」「そう。これを粉砕して砂よりもっと小さい粒子にします。後の使い方はいろいろですよ。」

「これのパワーは?」「そりゃあ、1トンあれば小惑星も粉々になりますよ。
最もそうコントロールすればですが。まあ使い方しだいでね。 ふつうはただ混ぜるだけ。へへへ 1キロあれば何にでもお使いいただけますので。へへへ」「いくらですか?」
「そうです…まあ、初めてのお客さんですからね…1億でいいですよ。」「…う~ん」1億ドル?まさか? ムネトモが考えているととその研究者はこちらの動向をうかがった様子で
「じゃあ、10万ドルでどうです?」と聞いてきた。それもビックリの値段だったが、用途を考えると高くはないのかもしれない。NASAならいくら払うだろうか?
ムネトモはOKした。「いま送金しましたよ。」スマートフォンを操作しながら伝えた。「へへへありがとうございます。」
「こちらはどんなところと取引があるのですか?」そういえば…まさかとは思うが此処はもしかしたら、秘密結社とつながるシークレットガバメント(闇の政府)と取引があるかもしれなかった。黒パーカーの研究者は送金の確認を画面でとりながら
「おもにこちらへ来ている出稼ぎたちの乗り物に使う材料でしてね。ちゃんとした方はお宅が初めてですよ。」と答えた。「これ、何か…そう、悪いことにも使えますよね。」気になることを聞いてみた。
「そうできない禁止令がありましてね。破れば禁固刑が待ってまして。へっへへへ。」
マイクが粉砕したものを持って部屋へ入ってきた。「ではくれぐれも お気をつけて。いや、もうここへ来るのはあなたが最後だと思いますがね。」その研究者は続けてささやいた。
聞こえにくくて不確かな言葉だったがたしか、こう言った。「もう私の方は帰還するのでね。」

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  ~~

ムネトモはもうひと仕事しなければいけなかった。帰ってから、スターライツの取締役ジョージに会いに出かけた。

「今度のCD販売についてですが、自分の会社に少しでも任せていただけないでしょうか?デザイン部門なら担当できるのですが。」部屋に入るなり、顔を曇らせて
話を持ちかけた。「いや、ムネトモ、もう決まってしまっているんだよ。発注の手配済みなんだ。どうしてまた、そっちの仕事を持ち込むのかね?」

「実は…、立ち上げた会社のプロジェクトが上手く進んでいません。いま他の仕事を手掛けないと会社が存続できないかもしれないんです。もしよかったらどうかお願いします。」
「いや、そうしたいのだが、悪いが駄目だね。」ジョージは残念そうに首を振った。ムネトモは断られるのは計算ずくだった。
「そうですか…ではジャケット写真上でのジュエリーの無償提供をさせてください。これは宣伝になりますからね。」
「う~ん、君がそんな状態ならわかったよ。それならこちらとしてもメリットは見込めるからね。」
とジョージは電話をとって「おい、宣伝部のラリーを出してくれ。」と何やら話しこんだ後、「ラリーと相談してくれたまえ。」と承諾した。
ムネトモはラリーのもとへ行き、提供するジュエリーを写真へどう使うかなど、相談してから、「あと盤面印刷もさせてもらえないかな?これはうちの会社の新部門なんだ。」
と頼み込んだ。もう印刷などの手配先も決まっているから、と渋るラリーに「もし、よかったらコレ新作なんだけど。」と自分の着けていたペンダントとブレスレットをはずして手渡した。
「これ、ムネトモブランドの新作なのかい?!」ラリーは目をキラキラさせて二つを手に持った。ムネトモのペンダントとブレスレットはファンの中では一番の人気商品だった。

ラリーは宣伝部というだけあって オシャレにも人一倍敏感だった。
もしこれをオークションにかけたら いったいいくら位の値がつくんだろう?何百倍か?それとも?
ラリーの頭はその現物を握っているということで一杯になった。何より自分の太くて毛深い腕と胸に最高に似合うだろう。

「そりゃあ、こっちも助かる。え~っと盤面印刷はまだ決まってなかったしな。」と思い出したかのようにうなずいて、嬉しそうに引き受けてくれた。
そう、こんな細かい雑務は、現場を任されている者に頼むに限る…とムネトモは思った。もちろん印刷業務部の新設は、口からでまかせだったが。
ともかくこれで、準備は整った。後は一番の難関、メーカー探しだ。

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天の川銀河からの贈り物~家族という歴史~

エルはあれからも同じような気持ちで苛立つ日々ではあった。ともかく今までとはこの家の流れが違うのだった。ミナへも言葉数を少なくしないと
余計なことをいうとあからさまに無視されるか、「うるさいわね!」と怒りの言葉が聞こえるので、段々会話もなくなっていた。
どうしてそんな風な態度が出来るの?今までの家族の流れからは信じられないと最初は考えていた。
でも日にちがたつにつれて 少し離れた目で今までの自分たちを見つめることができた。
「あの光のおかげね。」そうあの光の体験の後自分を超えた何かから 物事を見つめることができるようになった。
例えば宇宙や地球や魂から見た自分とは。この人生とは何なのか。
それは自分というマインド(自我)を超えて、あちら側から見るように思考の転換を図ってくれたかのようだった。
そのために、落ち着いた気持ちで対処することができた。もしあの体験がなかったら、そして自我で物事を見ていたら
きっと泣き叫んでいたかもしれない。自分はこんなに孤独だって、家族の中にいながら、分かりあえない寂しさを持っているって。
「感情は人にくっついて、その人の人生を台無しにするわね。」
それも自分を見つめなおせているからこそ、分かってきたことだった。

家族というのは愛情をかける分、下手をすると感情のるつぼの中で、苦しむはめになることもある。
そうならないように、ミナの気持ちになってみよう…と思うのだった。
勉強もよくできたし、親思いでいつも気がつけば傍にいる子だった。あれは今考えると私の寂しさを感じ取って離れなかったのかな。
なのに親として子供のためにと何かあるごとにこちらのやり方を押しつけてきたかもしれないなあ。
そう、例えばお弁当に赤ウィンナーなんかを入れてほしいと言ったっけ。でも着色料が使われているのなんてダメよ~ととりあわなかった。
お友達の色とりどりのお弁当を見ながら、どういう気持ちで食べていたのかなあ。
服装も、いろんな機能を考えて選んであげた。初めはコレやアレがいいというミナも、ママの選んだほうがこんなにいいのよと
さとすと、しぶしぶそちらにしていたっけ。あの時、ちょっと機能的でなくても、選んだミナの感性をどうして認めてあげなかったのか。

そんな風に考えると、いっぱい悔やまれた。その後悔の方が辛くなってきたエルだった。

  天の川銀河からの贈り物~家族という歴史~

ミナは横浜にいた。ヒトシと久しぶりのデートだった。この前スッポカしてから、体調も悪くなかなか会う気分でもなかった。
「今日は具合どう?」「うん、もうだいぶ良くなったわ。多分胃腸だと思うの。食べられなかったからね。でも昨日ぐらいから
食事が美味しくなってきたわ。」ぺロリと舌を出すミナをヒトシはかわいくてたまらなかった。ひとまわり近く歳が離れているからでもあったが
一人っ子できたヒトシにとってミナは妹のようでもあった。
「じゃあ美味しい中華食べようね。」と言ったヒトシの優しい顔を見ると、ミナは少し頼りなさを感じずにはいられなかった。
やっぱり雨宮さんみたいなリーダーシップのある人のほうがいいな。社会人としてまだ経験も少ないミナの気持ちは変動していってるようだった。

二人は食後に赤レンガ倉庫へ行ってみた。ミナが行きたいと言ったからだった。近くにあるカフェ&レストランで休憩した。「僕はカクテルを飲むけど、ミナちゃんはどうする?まだ体調良くないなら
アルコールはやめたほうがいいんじゃないかな。」「もう大丈夫だってば。」そう言って同じものを頼んだ。
二人はいろんな事を話した。ミナの幼い頃のこと。パパは留守がちでママといつも一緒でご飯をつくったり、食べたりしていたこと。
いつからかママと意見が違ってきて、それを押し込めていたこと。パパともっと遊びたかったこと。
「どうしてかなあ、ヒトシとこんな話がいっぱいできるなんて。」それはお互いだった。ヒトシもミナに自分のことを少しずつではあるが話した。
「僕はいじめられっ子だったんだよ。とくに小学校の頃ね。」一人っ子の寂しさはミナにもわかった。でもいじめられっ子の気持ちはわからなかった。
きっと想像するよりもっと辛いことなんだ。ミナはそのころのヒトシを想像して可哀そうになった。
「母は、大切に育ててくれたんだ。」そう言った言葉が一層淋しげだった。ヒトシは今母と二人暮らしで父はヒトシが中学のころに亡くなった。
「ただね、厳しかったから辛いこともあったんだ。」「お母さんが?うちはママうるさいんだけど、厳しいってどんなふうに厳しいの?」
「出来ないことに罰があって、できるまでさせられるんだ。」「それって体罰…?学校でいじめがあったんでしょ?それなのに体罰されてたの?」
ミナは自分にない経験をしたヒトシが可哀そうで顔が曇った。
「でもそれ以外は本当によくしてくれた母なんだ。それに今じゃ僕の言う意見を取り入れてくれる。本当にいい関係でいられているんだ。」
心配そうに見つめてくるミナの視線に照れながら、うれしく感じたヒトシだった。

゜゚゚ ゜゚天の川銀河からの贈り物~家族という歴史~☆゚ ゜゚

帰り際やはり少し酔ったミナだったが、気分は良かった。
ただ足がふらついていたし、おニューのヒールがきつくて足にマメが出来てしまっていた。ヒトシに腕を貸してもらい歩いた。
「大丈夫かい?」「う…ん」「あっ、やっぱり足に良くないよ。タクシー拾うから待ってて。」なるべく歩くことのないようにとミナの最寄駅からも
タクシーに乗った。 自宅前に着いて、ヒトシがタクシーを待たせてミナを送っていこうとしたとき、男性の声がした。
「高富君、どうしたの?」「あっ、雨宮さん、どうして?」目の前に雨宮がいた。
「ここの近くに用事があったんだけど、この前から高富君が元気ないんで気になって寄ってみたんだが、ちょうど会えてよかったよ。」「あ、ありがとうございます。」
恐縮と同時にミナはうれしくなった。雨宮が心配してくれるなんて、同僚たちが聞いたら嫉妬するだろうなあ。
雨宮はヒトシのほうを見た。「あ、あのオ…。友達なんです。送ってもらって…。」とミナは痛い足を指差して、これが原因と言わんばかりだった。
ヒトシは軽く会釈をして「ミナちゃん、行こうか。」と腕を出したのをミナは無視した。「あの雨宮さん、せっかくなんで家に来てください。母が
この前のお礼を言いたいと言ってました。」「今日は顔をみたかっただけだから、また今度にさせてもらうよ。玄関まで送って行くね。その足じゃあ心もとないな。」
微笑んだ雨宮に照れるミナを見つめていたヒトシは、「じゃあ、僕はこれで。」と目を伏せながらタクシーに乗ってドアを閉めた。
ミナは笑ってドア越しに見えるように「ア・リ・ガ・ト」と口パクで 感謝を示した。
人は分からないことには残酷になれる。思いやりが及ぶということは、常に相手への感謝の思いとセットなのだが
ミナの行動でヒトシがどんなに傷ついたかはその時のミナには考えも及ばなかった。

゜゚゚ ゜゚天の川銀河からの贈り物~家族という歴史~☆゚ ゜゚

何度か電話しても、ヒトシは出なかった。メールしても返ってこない。やっぱりこの前の帰り際、マズイことしちゃったのかな。
段々焦るような気持ちになってきたミナだった。それまでは電話してもメールしても当然のように反応があったのに。
あれから数日経って、返事が来ないということは、もう駄目だってことね。なんだ、まあいいか…。そう思いこもうとするたびに気になって仕方がない。
あんなやさしかったのに、ミナのこと好きでいてくれたと思っていたのに、もう会えないの?
ミナは部屋にこもっていた。留守電に連絡を欲しいと入れてみたのにそれでも返事が来ないことにかなりショックを受けているミナだった。
こういう状況になると、考えることはヒトシのことばかりになった。楽しかった横浜のデート。あんなことしちゃった私のせいね。
ミナはようやく自分のしたことへの愚かさに気付いてきた。悪気はなかったとはいえ、ヒトシのプライドをズタズタにしてしまったのか。
それも一度ならず二度までもやってしまった。ミナは謝りたかった。許してもらってもう一度ヒトシと話がしたかった。
あんなに気を許して話が出来たし、本当に思いやりを持ってくれたヒトシ。自分の大切な人が誰なのか今気付いたミナだった。
考えてもどうにも出来ない状況の中、段々気分が悪くなってきた。頭が痛い…。あの時と同じだ。しんどい…。吐き気が…する…。

゜゚゚ ゜゚天の川銀河からの贈り物~家族という歴史~☆゚ ゜゚

コンコンと部屋がノックされた。「食事ができてるわよ、もう遅いし食べないと。」
ちっとも部屋から出ないで夕食に遅れているミナを心配したエルだった。
返事がない。「どうしたの?寝てるの?入るね。」とそのドアを開けて立ち止まった。ミナはベッドに座り、頭を抱え込んでいる。
「どうしたの?頭痛いの?」心配で駆け寄ったエルを見つめたミナの顔が…。エルはその生気のない青白い、それでいて目がつり上がっている
ミナを見たとき、尋常なことではないと衝撃を受けた。それは母の勘だった。いつものミナと違う!
「うるさい、クソババア!」毒毛のある低い声がした。「ミナ? どうしちゃったの…。」やはりかなりおかしな感じがした。「ウルサイ!あ…頭が痛い
チクショウ、頭痛いよう…」泣いてるようなわめいてるような声だった。
夫の信弘はこんなときに限って、大事な出張があるとかで留守だった。本当にいつもね…情けない気持ちを奮い立たせてどうしようか考えた結果
お医者さんよりサイコに来てもらうことにした。このミナの状態を観てもらうためだ。
しばらくしてサイコが来てくれた。「さっきからずっとこんな感じなのよ。」その様子をみたサイコは「これは、私ではだめだわ。霊能のある人を呼んだ方がいいよ。」
「やっぱり何か…。」言いかけて怖くて口にできないエルだった。「憑依だね。ちょっと難しいかもしれない。でも誰に頼もうか?」
二人が考えて知り合いに聞いてみようとなった時、ミナの携帯が鳴った。ミナは無視して頭を抱えて唸っている。何か動物のような唸り声だ。

゜゚゚ ゜゚天の川銀河からの贈り物~家族という歴史~☆゚ ゜゚

何か手掛かりがつかめるかもしれないとサイコが電話に出た。それはヒトシからだった。ミナと違う人が出てきてビックリしたようだった。
「あの、いまミナは電話に出ることが出来ないんですが、どちらさまでしょうか?」電話の相手にはヘンなことだが仕方がない。交友関係もヒントになるかもしれないし。
今は藁をもすがりたいんだから。「あの、お付き合いさせていただいている林と申しますが、ミナさんに何かあったんですか?」との会話にサイコがしゃべろうとしたとき
「うるさい!話なんかやめろ!」ミナが太い声で叫んだ。電話越しに声を聞いて、異常なことを感じたヒトシはそっちへすぐにいくとサイコに告げた。
ヒトシが家に来た時はミナが暴れ出していた。物を投げるだの、自分の髪の毛を引っ張るだの、エルはもうどうすることもできず茫然と立っていた。
「これは…。」一目見て異常を察したヒトシはエルたちに告げた。「これは母がお役にたてるかもしれません。」

麻技(アサギ)は寝床でヒトシを待っていた。遅くなるときはいつも横になっているが帰ってくるまでは眠らない。今日も少し遅いようだ。
それでもあんなに心配した子が今はちゃんと働いていてくれる、そのことに満足していた。
ヒトシは大学の研究室で働いていた。だが待遇はさしてよくはなかった。どちらかというと日給月給のようなかたちで休むと給料は減ってしまう。
それでも人との関係も円満だったし、普通に生活できるのが一番だとアサギは考えていた。

ガチャっとアパートのドアが開いて、ヒトシは帰ってきて、アサギの前に立ちはだかった。「母さん、お願いがあるんだ。」

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ヒトシがアサギを連れて来た時は、ミナはうんうん唸っていた。エルとサイコは手をとりあって、見守るしかないようだった。
アサギはミナを見るなり、ヒトシに目配せをして数珠を出した。
それから アサギとミナの中の憑依霊ともいうべきエンティティとの対決が始まった。三人が手を合わせる中アサギは呪文のような言葉を唱えて
ミナの体の周りを周り始めた。苦痛に顔がゆがむミナだったが、三十分程経った時ベッドに倒れ込んだ。
「終わりました。今は体も疲れているので少し休ませてあげてくださいね。」そうアサギは告げた。
介抱と様子をみるためにヒトシを残して 隣のリビングへ移ったエルたちはアサギの言葉を待った。
「あれは憑依でした。どこかで憑いてきたようですがもう大丈夫ですよ。」汗をふきながらニッコリ笑うアサギを見て
エルたちも安堵の笑みを浮かべた。「体調を崩されたのはいつごろでしたか?」「多分あの時、お酒を飲んで酔っ払って…初めてだったんですあんなことは。」
「そうですね、そんな古くはないので、多分その頃でしょう。酔うと無意識がむき出しになりますから、浮遊霊が寄って来たのかもしれません。」

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ミナは落ち着いていた。自分がどうなったのか記憶がない部分もあったが、気分は治って頭痛もどこかへ行ったみたいだった。
とにかくヒトシが傍にいてくれて手を握ってくれた。そのことだけで、胸がいっぱいになった。
「私のこと、嫌いになったでしょ…。」「違うんだ。僕は、僕はね、君にふさわしくないんじゃないかと考えたんだ。薄給のサラリーマンだし、年上で
これからも出世の望みもなく…。」ミナは首を振った。「私はそんなこと望んでないってわかったの。出世している上司や、父のような仕事一筋人間は
私の本当の望みをかなえてはくれない気がする。」「本当の望みって?」「それはネ…。」ミナはクスッと笑った。「いつも一緒にいてねってこと。」
そう言っておでこをヒトシの胸にくっつけた。

「本当にありがとうございました。こんな夜中に、突然お呼びたてしまして。このお礼は改めてさせていただきます。」エルとサイコはアサギに深々と頭を下げた。
「いいえ、そんなこと。ヒトシの大切なお友達のようですし、とにかく無事終わって良かったですね。」
ヒトシとアサギは帰って行った

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信弘は朝方携帯に着信が入っているのに気づいた。エルからだった。何だろうと電話しても出ない。
昨日は本当に疲れていた。やっとのことで地方で仕事先を見つけることが出来たのだ。

信弘の会社は印刷関係機器のメンテナンスを主に手掛けていて 少人数で仕事先を回っている。
お得意さんを確実に確保しているので、順調に業績は少しずつ伸びているやっとのことで立ち上げからここまできた会社だ。
だがときたま本業を少しずれた依頼があったりする。 この前も印刷機器ではなくて、印刷インキのことで依頼がきたからビックリした。
普通はメーカーに直接頼めばすむことだが、何か特殊な、印刷機械自体にも影響があるようなインキらしい。だからメンテ会社経由で印刷インキを
作ってほしいとのことだった。頼みに来た人は必死だった。他で再三断られたそうだ。
けれど自分の会社もそんなわけのわからないリスクは引き受けるわけにはいかないので 断った。ガックリとして帰って行った依頼人が気の毒ではあったが。
それが 一転、何か引き受けなければと思いなおしたのだ。そう、あのとき、エルとミナがオカシクなってしまったまさにあの時依頼を引き受けたのだった。
夢中でいろいろ調べたりしてとにかく会社を優先しなければいけなかった。

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今回の出張はやっと見つかった印刷会社で、アノ変な「石の粉」だとかいうものを混ぜたインキを作製させたのだ。
そりゃあどこも引き受けないだろう。石の粉なんて、大丈夫だと言っても、機械自体どうなるかわからない。それに大層厳重に入れ物に入れてある。
それをこちらが見届けながら入れるんだと。
まあ、何とか上手く融合して全体としては成功したのだが、このことも依頼人との約束で秘密にしなければ行けなかった。
その代り手数料は別口でもらえて、メンテの利益もかなりの額だった。それに何よりあの石は不思議なものだった。あのあと機械の調子も抜群に良さそうだし
とにかく良かった良かった…とホッと伸びをした矢先、エルから電話が入った。

「昨日は本当に大変だったのよ!」少し落ち着いてはいたが、電話したことでまた興奮してきたエルだった。
「そうか、で、今はミナはどうしてる?」「今日は会社も休ませたけど、まだ寝てる。よほど体力消耗したみたいよ。」
ミナにそんなことがあったとは。何故か忙しい時に限って、家族に何かがあるんだ。その場にいなかったジレンマもあったが
なんとか無事だったようだな。

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印刷インキを送る手配をして、次の日やっとのことで家路に着いた信弘はチャイムを押しても出ないので鍵を開けた。
あたりは真っ暗でリビングの先のベランダからチラチラと明りがこぼれているくらいだ。
もう11月の終わろうとしている寒々とした空気の中へ帰るのは めったになかった。

男は家庭を守りぬくんだと、言葉ではなくその生活の姿を親から教えてもらった。

仕事をして、人より抜きんでることで自分の存在価値を認められる。

会社を興して、それが順調に行くことがともかく先決なんだ。それには、少しの時間でも感情を揺さぶられる事柄からは避けていなければいけない。

いつしかそんな意見で自分を固まらせていたのかもしれない、と信弘は思った。

「淋しいもんだな。」部屋に入るといつも誰かがいて、明りがついていた。温もりも全然違う。
ネクタイを緩めてソファに座りながら、エルとの最近の話し合いを思い出していた。

「私、街中に仕事場を借りてそこで頑張ってみようと思うの。」
突然切り出されて言葉が出なかったが、続いてエルは「やっぱりやるからには本腰を入れてみたいの。それも一週間に主だった日は寝泊まりして出来なかった勉強やセミナーも受けてみようと思うの。とにかくこれからやってみるつもりです。」
そう言い放った。これは相談ではなく決意だ。信弘は反対出来るすべもなく、「わかった。」としか言えなかった。
「これからはこんな日が続くんだな。」明りをつけずに ベランダを見つめてそう呟いた。

゜゚゚ ゜゚天の川銀河からの贈り物~家族という歴史~☆゚ ゜゚

寒さが増した晴れた日だった。アサギは朝ごはんを作っていた。毎日欠かさず味噌汁とご飯と野菜に卵などのたんぱく質を添える。
7時にはヒトシが起きてくる。そしてお弁当を詰める…。こんなに日々がしあわせなことはない。普通に暮らしていける、そのことを
とても有り難く思うのだ。主人が生きていたころは三人で欠かさず朝食を食べた。それは自分が幼いころから望んできた生活だった。
アサギは母と祖母の三人で幼いころを過ごした。お父さんと呼ぶ人を覚えてはいない。アサギが生まれてすぐに亡くなったらしい。
母が主夫の役目もしてくれて働きながら育ててくれた。それでもやっぱり淋しかったことを覚えている。
祖母はアサギのそばにいつもいてくれたし、働く母の代わりもしてくれていた。アサギの敏感な霊能力は祖母譲りだった。

「おはよう、ヒトシ。今日は週末ね。」「うん、今日ちょっと遅くなるよ。ミナと会う約束をしたんだ。」
「そう、元気になってよかったね。とても素直ないい娘さんじゃない。また家にも呼んでみてね。」
「うん。」 照れくさそうに返事をしたヒトシを微笑んで見つめるアサギだった。

こんないい子を…私は幼い頃にしつけとはいえ、酷い仕打ちをしてきたことがあるんだ…アサギはまたヒトシの幼い頃を思い出した。
その過ちは今も胸に残っていて消えない。
言い聞かせれば分かることなのに、体罰をしていたことを悔いても悔やみきれなかった。そのせいでヒトシは精神的に暗くなって
中学でもいじめに遭い、高校でもあまり友達もできずにきたんだと考えていた。
あの頃、主人が病気がちで家事と仕事にも忙しくて、心の余裕などなかった。それに…とアサギは気付いていた。
自分も母親に同じようにしつけで体罰を受けて、そのことで心も傷ついていたことを。母も同じように夫がいないしんどさ、寂しさと共に
生活の余裕なんてなかったんだろう…今になってしみじみ母のことが分かる歳になった。
その母から受けた仕打ちをヒトシにあまり考えもせず、無意識に繰り返していたのだった。「これは負の連鎖。家族としての悲しい記憶はもうたくさん。」
アサギは心からヒトシを愛することを考えた。どうしたら、何がこれからあの子のためになるんだろうと常に考えてきたのだった。

食卓について食事を始めた二人は テレビに見入った。「あ、ここ知ってる。奈良だね。」
朝の番組で中継放送をやっていた。そこは奈良公園からだった。以前家族旅行で行ったことがある。
画面は大仏殿も映していた。「ワ―懐かしいな。母さん、僕小学校何年のときだっけ?行ったの。写真あるもんね。」
「本当だね。もういっぺん行ってみたいねえ。周ってないところを今度行こうとお父さんと約束していたんだよ。」
「そうか…そうだったんだね。じゃあ今度一緒に行こうよ。…そうだ、来週末にでもどう?行ってみようよ!」
「だって、急だし…。」「予算なら大丈夫。誕生日のプレゼントだよ。行けるときが行き時だって。」

ヒトシは親孝行がしたかった。この前のミナのことでも母さんがいなければどうなっていたことかとよくミナと話した。
好きな人ができて、尚更、父と生活を共にした母のことが理解出来てきたようだった。
母さんは幸せだったんだ、そう思えることでまた自分も幸せになった。親子の思いは切り離されることなく常にお互いを行きわたる。
「じゃあ、旅行、手配もしてくるよ。」笑顔でヒトシは家を出た。

週末の新幹線は混んでいた。東京を出てからは旅行気分に浸った二人だった。朝出れば昼頃には京都そして奈良にも着ける。
以前の想い出を話ながら、アサギは昨夜の夢を思い出した。

前に3人、後ろに7人 おどろおどろしい装束と儀式。古代の景色。何かの呪詛をかけられている場面。
何度も見てうなされた夢だった。そう、その夢ははっきりとわからなけど、場所が奈良だということはわかっていた。
アサギはよく祖母に聞かされていたことがあった。それはまたも自分の家系のことだった。
昔西の方から大和に入り、そこの土地を仕切る豪族だったが、主は謀略に倒れてしまった。その時に呪いをかけられて
男子が育たないようにされた妻は、その呪いを解くべくいろんな事を試みたが叶わず、その呪いを解いてほしいと子孫に託したそうだ。

「昔からそう言われてきたけど、あんたはその遺志を継いでくれる子。私にはわかる。」そう祖母から言われてきたアサギだった。
自分の人生から父も祖父もいないし、主人も旅立ってしまった。
あと、ヒトシにもしものことがあったら自分も生きてはいられなくなるにちがいない。そういつも思ってきた。
どうしてもそれを解かなければならないと常に気持ちを張り詰めていたアサギの人生でもあったのだ。
でもどうすればよいのかわからなかった。誰に聞いてもとどの詰まりはアドバイスどころか
そんなことに関わるより、もっと普通に生活していくことが大切よという人たちもいた。

゜゚゚ ゜゚天の川銀河からの贈り物~家族という歴史~☆゚ ゜゚

有名な霊能者と言われる人でも、ああしなさい、こうしなさいと言う割にはハッキリと確信のもてない方法ばかりだった。
「自分の子供が腕の一本なくなってもそれはその子の魂が選んだのよ。仕方ないことです。私はどんなことも受け入れます。」
「魂には古さがあってね。あなたもあなたの親も中間位かしら、もう少しスピリチュアルに関わっていく必要があるわね。
もうそろそろ、(私のメソッドを使って)仕事するべきよ。」
そんなことを言う霊能セラピストもいた。
まず、そんな人は自分の子供の怪我は受け入れるけどと言い、クライアントの想う人生や言葉は受け入れず、
セラピーでコントロールしていることに気付かないようだった。
一番大切なのは、今子供でも、誰かでもいいが苦しんでいる人を見て、ただその状況を受け入れるわ~なんて言えないと思うアサギだった。
それならマザーテレサはいらないではないか。それとも彼女みたいに他人なら慈悲を施すべきということかしら。
「スピリチュアル・パラドックス」、スピリチュアルな言葉自体が持つうわべの甘さを、自分の中でコーディネイトして選んでいるだけなのだ。
こういう人は 次元の違うアドバイザーつまり守護霊などと呼ばれる存在もいて、超能力はあるのだが全てが正しい人間なんていないし、
特別なんかじゃなくて、ただ今をこうして悶え苦しんでいても、その状態と向き合って生きていること自体がスピリチュアルなんだと思うアサギだった。

まして命がどうのこうのと言う場合、見守るという立場でも、すっ飛んで行って手助けする立場でも、それはお互いの関わり合いの中で意思をもって
お互いが紡いでいくこの三次元での体験なのだ。そんな中では 魂の古さも、新しさもない。お互いがお互いを経験として与えあうのだと思う。
それが家族でも、憎み合う者同士であっても。それが魂との関わり合いであり、敬愛なのだ。

゜゚゚ ゜゚天の川銀河からの贈り物~家族という歴史~☆゚ ゜゚

だけどネ、自分に降りかかったらそんなこと出来るかしら?。
上の次元を見るったって、この肉体を持って生きなさいと生まれてきた。
アストラルとしてやり合うことや呪詛の掛け合いはやるべきではないと思う。やったらやりかえされる、永遠のカルマが生じる。同じ次元には立たないことだ。
けれど、自分が生まれ持った魂のカルマを変えていくのに 努力もなく上(次元の)の精神性を大切にしてただ今を生きましょうなんて
ただただ運命に任せて子供がいなくなったってしょうがないと言われていることと同じだ。
今のスピリチュアルイズムはソフトクリームと一緒だね…といつも思う。
外のクリームの山は甘くて冷たくて美味しいけど、コーンカップの下は何もない。

全てを受け入れることの意味がわかっていないね。
ただ災害や出来事を受け入れましょう?
馬鹿じゃないか。 こう在りたいと人生を創造していくことが神から受けた資質の一つだしこれからの人類はきっと個々の宇宙を開いていくのかもしれない。
だけど、そうなるには自分が自分に寄り添い、自分の中の神を顕在化していくことであると思う。
それは、唯ただ内観していくよりほかはないのだ。
私なら、とアサギは思う。もし受け入れられないようなら自分の気持ちと対峙して、その恐怖を奥深く見つめて行くようアドバイスする。
魂のプランには介入しないが、お互い同志が創る現実を、調和のとれた愛あるものへと変化させ続けたいしそうする。

゜゚゚ ゜゚天の川銀河からの贈り物~家族という歴史~☆゚ ゜゚

アサギは対処方法をさがすべくいろんな事を学んでいた。若い頃古神道や密教の門をたたいたこともある。
ニューエイジやヒーリングなどの方法論も一通り知った。みな同じ世界のことを形を変えて伝えているようだと思った。
時間と空間とを超えた世界があり、全ては一つで全て一瞬にして起こっているという概念も理解できた。
つまり時間や空間というものは認識世界の中で作用する、系列だった引き出しのようなものだと思った。
この宇宙空間ではその系列は後のことが先にもなる、過去が未来にもなるということらしい。
つまり、呪詛が生きて時空を超えて働いている可能性はあるということだった。

新幹線は京都に着いた。駅からすぐ近鉄に乗って奈良まで行ける。二人は晴れた秋から冬へ変わろうとしている空を
その車窓から充分楽しんだ。
奈良について、お昼を食べ、春日大社や大仏殿もひとしきり周ってみた。

「明日は、三輪と明日香だね。懐かしいなあ。」喜ぶヒトシに「小学校の頃も、今もこんな静かな場所を好む子だねえ。渋いところがあるもんだ。」
と若者にない落ち着きを持つ面があると考えるアサギだった。ヒトシにはそれは懐かしさとともに、父との記憶での遭遇場所だった。
同じたたずまいの場所に、在りし日の父の動きを感じた。優しい笑顔が今甦って来るようで、胸に感動と感謝の気持ちが湧いて来るのだった。

゜゚゚ ゜゚天の川銀河からの贈り物~家族という歴史~☆゚ ゜゚

その日は久しぶりに暖かくて過ごしやすかった。三輪神社の前に立って、二人はしばらくその風景を見つめた。
アサギは以前に来たときに、得た感覚をもう一度確かめたかった。あの時から二十数年経とうとしていた。
もう一度あの拝殿に行けば、確信が持てる気がした。二人は山の参道をゆっくり登って行った。
拝殿は人が並んで、ひと組ずつ拝んでいた。アサギ達の番になり、手を合わせて目をつむった。
「やっぱり!」脳内に映像が見えた。昔見たのと同じ、ここのエネルギーは二重だ!それは下のエネルギー場を上のエネルギー場が平行に覆っているようだった。

「やっぱり何か封印されているのか?」山奥のイワクラ辺りに何かのエネルギーを感じたこと再確認した。

以前に来てからというもの、ここ三輪の歴史を調べてきたアサギだった。

その結果、どうも古代に王権が出来た頃、ここら辺りが変化したようであった。
三輪山はもともとが「ミムロ山」と呼ばれていたらしい。縄文時代から弥生に移行していくとき
ここの名前も、「三輪」に変わっていったそうだ。

二人は明日香へ行って、のんびりした後、ホテルへ戻った。
「疲れたかい?大丈夫?」持病を持つアサギを心配して ヒトシが尋ねた。
「大丈夫よ。本当に晴れて気持ちいい日だったね。楽しかったよ。」嬉しげに微笑んだアサギだった。
「先にお風呂へ入ってきていいよ。」そういうとアサギは 部屋のテレビをつけた。
ニュースで イランやイスラエルの紛争の様子が映っていた。「ああ、まただね。」世の中はいつも世界中で何かが起こっているものだ。

゜゚゚ ゜゚天の川銀河からの贈り物~家族という歴史~☆゚ ゜゚

夜が更けて、早朝三時過ぎにアサギはそっと起きた。横に眠るヒトシの顔を見て、物音をたてないで用意していた着替えを持って部屋の入口で着替えた。
フロントにはタクシーの手配を頼んであった。
行先は 大神神社だった。 まだ暗い中をタクシーから降りて一人で歩いた。
昨日昼間に来た拝殿の前に立って、目をつむった。何かの儀式をするわけではない。ただ光がそこに届くようにとイメージしていた。
祖母から聞いたのは、祈りと高次元からの光りを信じるということだった。怖かったが、恐怖よりもそこから来る何かの悲しさをキャッチしていて
自分に出来ることをしたいと思ったから来たのだ。 朝方なら人の気配はないし、集中できるだろう。
一時間ほどそうしていたとき、ふっと動くものを感じていると、急に拝殿の上の山頂付近からパアッと白い光が現れた。
ハッとして、見つめていると、その大きな光はスーッと夜空に上昇していった。

「終わった。」急に緊張が緩んで脱力しかけていたアサギだった。
いくら厚着をして準備したとはいえ、12月の朝方の寒さは アサギの身体を容赦なく突き刺していた。
もう倒れるかと思われたその時、今度は金色の光りがアサギを包んだ。遠く星空の方から伸びてくる光りだ。
まぶしくて見つめていられないほどだったが、目を細めると明りの先が見えるようだった。ぼんやりとした物体…生きもののような影がゆらゆら揺れながら
こちらへ来る…それは神様のよう神々しい。アサギは急に怖さもなくなり、ただ手を合わそうとすると、その影は言葉にならない声を
脳へ直接響かした。
「△∴×○∴△」何かの呪文か?聞いたこともない言語だ。少し日本語には似ているが…。
「オボエルコト オボエル…」 と何度か言葉も聞こえた。そうか、この呪文を覚えておくということだ。しっかりした意識で記憶したアサギは
その後、意識を失ってその場に倒れた。
早朝のホテルに病院から電話があった。アサギが担ぎ込まれたのだ。

゜゚゚ ゜゚天の川銀河からの贈り物~家族という歴史~☆゚ ゜゚

「母さん。」心配そうにヒトシが覗きこんでいた。アサギは眼を覚まして、身体の痛みを自覚した。
「大丈夫だよ。」血の気のない顔で 笑って見せた。いまその状態とは反対に何かスッキリしていたアサギの心だった。あの光を浴びて、神のような存在の言葉を聴いて
胸のつまりがとれたようだった。「それにしてもあの呪文は…そうか!そうなんだ。」
三輪の封印を解いて「あのもの」を解放したご褒美に 神が使わしてくれたんだ。
ちゃんとこのための呪文だと聞いたもの。
言葉の呪文、言霊のことは祖母から聞いたことがあった。昔の大和の大王(オオキミ)は天候や農耕にさえ、その呪詛を使ってコントロールしていたという。

ずっと遠くを見つめて考え事をしている母の様子が気になったヒトシは、母の額にそっと手を当ててみた。
「具合悪いの?」「ヒトシ、ちゃんと聞いてほしいの。話があるから。」「何?あらたまって?」「うん。」と顔をヒトシに向けて
先ほどの呪文を教えた。「これはね、ずっと覚えておいてほしいの。ヒトシが守られる呪文なんだよ。誰も傷つけず、難を払う力があるの。」
「どうして急に?」「さっきね、神様に教えてもらったの。一番大切なのは影響を受けないことなんだ。ただそれだけなんだよ。」
攻撃するものから影響を受けないということは、全てにおいて平和と調和的なことだとあの光の中で聞いた気がした。

「また家系の話? 大丈夫だって言ってるのに。」「でも本当なんだ。だから忘れないで。授かったのよ、あなたにね。」
「わかったよ。忘れない。ちゃんと記憶しておくよ。」
ほっとしたようにまた眠りについたアサギだった。

東京に帰ってから、精密検査に行くように医師に言われていたアサギは 検査入院した。ヒトシは勤め先から帰ると病院に寄った。
「もうお正月準備しとかなくちゃね。」「まだ大丈夫だよ、ゆっくりしてよ。まず身体を治すことが一番だよ、母さん。」
アサギはこのヒトシの「母さん。」という言葉の響きが好きだった。自分はこの子の母なんだということがしあわせだった。

゜゚゚ ゜゚天の川銀河からの贈り物~家族という歴史~☆゚ ゜゚

病室で顔色の冴えない母を見つめながら、ヒトシがそばで座っているときだった。
アサギは急に思い出したかのように話し始めた。

「ねえ、ヒトシが生まれる前ね、ベランダで洗濯を干していたの。そうしたら、面白い形の白い雲がニョキニョキ出てきてね、ずっとそれを見ていたの。」
微笑んで嬉しそうに話す母だった。「そしたら…。」「そしたら、そこに僕の顔があった?」
アサギはいきなりそう言われて驚いてヒトシを見つめた。「ハハハ、僕は母さんを見つけてたんだよ、知ってた?」
初めて聞く話に、はじめはヒトシが冗談で答えているのかと思った。。
「殆ど記憶がなくなって来ているんだけど、僕は母さんを選んだんだよ。小さい頃はハッキリ覚えていた。おばあちゃんには話したけどね。」
「そうだったのね…はじめて聞いたよ。」 何だか感動して胸が震えるアサギだった。生まれる前に、この子は私を選んでくれたんだ。

「あなたの顔を見たわけじゃないのよ。ただ…雲の方に、その上に、見えないけど赤ちゃんが来る世界があるって気がしたの。そこから来た
自分の子に出会えるって。そう思えて、不思議でたまらなかったけど、とってもワクワクして嬉しかったのを覚えてるよ。」
そう言って微笑んだアサギもヒトシも何だか感動していた。 この世で出会えるというのは奇跡に等しいことかもしれない。

「でも、そんな思いで産んだお前を、私は…。しつけと言って手をあげて大切な身体と心を…。」
「その当時は自分はだめな子供なんだと思った。…けど、僕のためだったんだろう?きっと憎くてそんなことをする母さんじゃないって分かってたから。」
「ごめんね…ごめんよ…。」言葉を出せずに 涙があふれてきたアサギだった。
「もういいからね。自分を責めないで。いろんなことに想いをかけてくれたって、今じゃわかってるんだよ。」
母の小さくなった背中をさすりながら、ヒトシも目に涙をためていた。

アサギの容体が急変したのは そのあくる日だった。

゜゚゚ ゜゚天の川銀河からの贈り物~家族という歴史~☆゚ ゜゚

ミナを連れて、ヒトシは病院へ駆けつけた。病室に入って母を見たとき、足がガクガク震えるのが分かった。
「母さん!」 母の顔の色は殆ど血の気がなかった。アサギはミナを見ると、少し顔を緩めて微笑んだ。
「ヒトシ、もうお母さんはダメかもしれないね。…あなたとミナさんの結婚式、そして子ども…見たかったねえ…。」か細い声で母は話した。
「何言ってるんだよ!まだまだ大丈夫だ…」「わかってるんだよ、自分の身体だからね。…ミナさん、来てくれてありがとうね。この子をどうぞ
よろしく頼みます。」アサギは震える手を合わした。「そんな、私…。私、ヒトシさんを大切に思ってます。それは本当です。お母さんのように
家事もできるようになりたいと思って、…エッ…教えてもらいたいと…思ってて…エッエッ」嗚咽しながら話すミナだった。涙が出て止まらなかった。
ヒトシは大丈夫だろうか?振り向いたとき、目と皮膚を真っ赤にして、膨れ上がった顔のヒトシがいた。
「家事は出来るわよ…一緒に…ご飯食べたかったねえ…。」もう答えることが出来ないミナだった。泣くところをみせるまいと両手で顔を覆ってしまった。
「ヒトシ…いい忘れていたことが…ある。」アサギは息をするのがとてもつらそうになっていた。ヒトシは母の声をもっと聞きとろうと、母の顔に近付いた。
「何だい?…母さん。」
「あのね…生まれてきてくれて…ほんと…に…ありがとう…ね。」ヒトシは涙があふれてとまらなかった。
「僕も!僕の方こそ、ありがとう。親子でいてくれて。僕を育ててくれて。」
 そのヒトシの言葉を聴きながら アサギの意識は遠くへ向かって、この世を離れてまた別の世界へと旅立った。

゜゚゚ ゜゚天の川銀河からの贈り物~家族という歴史~☆゚ ゜゚

ヒトシはアパートの食卓テーブルの前にポツンと座っていた。理解しようとしても、あまりにも急でまだ日常には反映しない気持だった。
お湯を沸かしていたミナは、急須からお茶を入れてヒトシの前に置いた。まるで生前の母がそうしたような、同じような仕草だった。
また涙が出てきたヒトシだった。親一人子一人で、苦労をした母をいつか幸せにしてやりたいと、それだけが願いだったように思う。
それが出来ないで終わってしまった挫折感のようなものをどうすればいいんだろう?
「私あなたといるよ。いつも一緒だって言ったよね。結婚とか、そんなの今はどうでもいいの。あなたといたい、それだけなの。」
座っているヒトシの後ろから抱きついて、耳元で囁いたミナだった。
「僕も…そうしたい。」ミナの暖かなほっぺがヒトシの首筋に触れた。「私もね、私もあなたに出会えたこと、ありがとうって思ってる。」
「うん、そうだ。僕もだよ。こうして分かち合える人がいることは 本当に幸せなことなんだ。」
二人のテーブルの先には 母のそして父の写真が笑っている。
「さあ、お茶を飲んで、楽しくしましょ。お母さんたちもよってもらおうよ!」「テレビつけるか?母さんいつもこの番組見てたから。」
そう言ってヒトシはニュース番組を選んだ。
ニュースアナウンサーの驚いた声が飛び込んできた。「…太平洋を航海中の漁船が何かの白い光に助けられたということです。それでは、船長のインタビューをどうぞ。」
画面は船長と思しき坊主頭の男を写しだしていた。「いやあ、ビックリしました。転覆しそうなのが元に戻ったんですからね。その白い光は霧のように自分たち
乗組員を包んだかと思うと、サーっと上に昇ってそれから本州、そうですね、近畿の滋賀辺りの方向へ飛び立ちました。」そう答えていた。
またもやアナウンサーに切り替わり
「これは実際にあった体験ですよ!いやあ、あの中東でも目撃されたということで、いったい何なのでしょうか?龍にも見えたというらしいのですが、
その後の中東情勢は 緊迫したのが、緩和されたということですし…。」

ヒトシとミナは頭をくっつけあって ぼんやりテレビを眺めていた。

゜゚゚ ゜゚天の川銀河からの贈り物~家族という歴史~☆゚ ゜゚

  ~1P~

ヤスは憮然として、スタバに入りいつもの席に座った。ムネトモと話があるときに使う座席は不思議と空いていた。
そこへムネトモが入ってきた。ヤスを見るなり、笑顔になったが、ヤスはまだ憮然としたままだった。
「どうしたんだ、何か顔色悪いぞ? 気分良くないのか?」
「今日は明日のツアー初日のために自己調整しなくちゃならないのはわかってます。でもどうしても、無理なんです…。」
「どうした、らしくないじゃないか。いつもは一番明るいのに…。」「実は…わかってきたんです。あいつらが何者か、どんなことをしたか…。」
「何がわかった、いったいどうしたんだ!」 こぶしを握り、震えるように耐えているヤスを見たムネトモは、何か尋常でないことを感じた。
「いつも情報を探っている、友達のジャーナリストが教えてくれたんです。彼は僕の身の上も良く知っていて、それで協力もしてくれているんです。」
「身の上って、出身のことか?」「僕は幼い頃に日本にいたことがあるんです。母が離婚して一時期弟と僕を連れて帰国していたんです。やがて僕はアメリカの
父の元へと帰り、弟は母と残りました。弟とは5歳違いです。僕らは何かと仲が良かった。ホントは離れるのはさみしくて嫌だったんです。」
「そうだったのか…。」そこまで言うと スうーっと深呼吸してヤスはまた話した。
「あの事件があって、丸岡高校の…あの時の被害者が、僕の弟なんです。」「えッ…。」ムネトモは絶句した。丸岡高校の事件は知っていた。全国でニュースが流れていたし
何よりショッキングな事件だった。

゜゚゚ ゜゚天の川銀河からの贈り物~天使の運命~☆゚ ゜゚

確か一年の男子学生一人が学校内で刺されたんだった。それがヤスの弟だっていうのか…。ムネトモは、しばらく茫然としていた。
「5年前起こったことです。犯人は捕まらなかった。それが…それが今になってわかるとは!」もっと顔をこわばらせて話すヤスだった。
その犯人というのが、あいつミシェルらしいんです。あいつが、留学していた学校は同じ地域だった。警察にも候補としてあげられていたらしいんですが
証拠不十分で釈放されています。今回ジャーナリストが その事件を追及している刑事や周囲の人数人に当たってくれて、確信を得たんです。」
「まさか、信じられんが…。まさか…。」「証拠は同じように容疑をかけられた仲間がいて、それがあの秘密結社と関係あるんです。弟は何かを見てしまったか
それとも聞いてしまったか…。とにかく関係者たちが揃って、犯人を知っているのに逮捕もされずにいたんです。」
それじゃあ、ミシェルは君のことを知っていたというのにバンドに入れたのか?」「いえ、僕は姓も違うし、国籍はアメリカのままでしたから。」
「でも、わからないことはない。調べればわかることだ…。じゃあ、知っていて?そんなバカな…。」ムネトモはそのことが真実なのだとしたら
やはりミシェルは狂っていると思った。正気じゃない。まるで手玉にとって遊んでいるみたいじゃないか。胸が気持ち悪くなるような気分だった。
ヤスは下を向いて顔をこわばらせたままだ。息づかいが少し荒いようだった。どうしようもない現実に耐えているだけのようだった。

゜゚゚ ゜゚天の川銀河からの贈り物~天使の運命~☆゚ ゜゚

ムネトモは眼を閉じて 呼吸を整えた。いましなければならないことは、この状況を変えることだった。明日ツアー初日という日に、この情報がもたらされた。
これも何か意味のあることなのかもしれない。
「ヤス、聞いてくれ。俺にも弟がいて、事故で亡くなったのは知ってるな? その時の状況は、実は加害者がいたんだよ。その車はわざと追い抜かすことをしたんだ。
それもカーブギリギリで、まるで事故になるようにな。そこには若者数名が乗っていた。音楽をジャンジャンかけてな。ただ…ただスリルを楽しんでいたんだ。
そんな車を避けようと父は必死でハンドルを切ったんだ…。」ヤスはムネトモを見つめていた。
その音楽は何だったと思う?…そうだよ、俺の以前のバンドのファンだった。」目を閉じて呼吸を整えたままでムネトモは言った。
「それでも俺は音楽をやめるつもりはなかったし、今もそうだ。そのことがかえって俺の音楽に対する姿勢をみつめさせてくれた。いいかい、俺たちは無人島で歌ってるんじゃないんだ。
ファンの前で、誰かの前で演奏(やる)んだ。そこには、お互いの交流が、受け取って反してくれる人がいるんだ。それならば、最高の音を伝えたい、そうだな?」
ヤスはムネトモをじっと見つめていた。

「言ってることは、よくわかります。でもその音を出す同じ仲間が…。そんなこと耐えられない!」
「そうだ、耐えられないよな。あの時もそうだった。自分が…自分の音楽があの事故を引き起こしたのかと、自分を責めた時期もあった。
遠くを見つめながらムネトモは言った。
「でもそんなやわな人生観、すぐに捨てたよ。人はそれぞれに運命というものを、自分で背負ってる。それは自分の何かが決めてることだと思う。
事故を起こしたそいつらも、家庭では何かあったのかもしれないと思うようになった。もちろんやったことの責任は絶対本人たちにあるんだが。
それからは音楽に対する姿勢を変えてみようと思ったんだ。」
ムネトモは続けた。

「リバース・スピーチって知ってるか?」「え、いいえ。」ヤスは少し首を振り答えた。
「昔、レッドツェペリンのStairway to Heaven(天国の階段)の歌詞に、逆再生したら悪魔的な言葉が聞こえるって話題になった。
これはその後の研究で 逆再生したら人の本音が無意識に表れると言うんだ。つまり、表では平和の歌、こころの奥底ではその反対の状態なら
それが表裏として、メッセージを刻印するんだ。表も裏も同じ平和を想うなら、そう再生される。
これが何を意味するかわかるか?特に音楽において、ロックなんかの若者への影響を考えると、そこに焦点が行くようになったんだ。」
「つまり、本音は隠せないってことですか。」「そうだ、それをぶちまけるロッカーの本音。それを聴き続けるリスナー。音楽は無意識の世界へ
通じるんだよ。」「そりゃ、演奏(やって)るときは、ぶっ飛びますが…。」
「弟は俺の音楽が好きだった。だから…、純粋(きれい)な音にしてやりたかった。そう願いながらその後、音源を作って行ったんだ。」
「あっ」とヤスはつぶやいた。ムネトモ・ミュージックの音調が変わってきたときと一致した。
「ファンにはいろんな立場の人も沢山いるだろう。幸せな人ばかりじゃないと思う。みんなピュアに聴きに来てくれるんだ。その人たちを
大切に思いたいんだ。」
「…ムネトモさん、わかりました。オレ、…わかりました。」

しばらく沈黙が続いた。ムネトモは、おもむろに自分の着けていたペンダントを外した。
「これは弟へと作製した、一番大切にしているものなんだけど、着けてくれないかな?」「えーっ!」ヤスは突然の申し出に一瞬びっくりしたものの
嬉しかった。「でも、そんな…。弟さんへの大切なものを…。」
「いいんだよ、良かったら、持っていてほしいんだ。弟もきっと喜ぶよ。あいつの大好きなロックミュージシャンに着けてもらうんだからな。
それに、こうして話をしているうちにヤス、お前も弟みたいに思えるんだよ。いつもこうして相談に来てくれてるしな。」
微笑んだムネトモの前で、ヤスは泣いた。すすり泣きだった。

エルはもう三月に入った日の午後の陽ざしが射してくるリビングでくつろいでいた。横には携帯をいじっているミナがソファに座っている。
その横顔を見つめて、もう段々と大人の女性へと変化していく子供が嬉しくもあり、淋しくもあると思った。
とにかく、あの「霊騒動」の一件以来、ミナは元に戻ったかのようだった。エルに対しても、普通に接してくるようになった。
いやもしかしたら少し距離を置いた大人として、考えているのかもしれない。昔のように甘えは言わなくなったもの。
「でもこれからは、同じ大人として社会人としての話もできる」そう思うと、親子の会話が楽しみになった。

「ほら、もうすぐ始まるわよ、ナップグランドのツアー初日の衛星放送。わあ~楽しみぃ~。」「ちょっと、楽しみぃ~とかいうのやめてよ!
ママちっとも可愛くない~!」軽口を叩きながら、これからの放送を楽しみにしていた二人だった。
「何が始まるんだ? ああ、ロックの…。」と言いながら 信弘がリビングに入ってきた。
三人が揃うのは本当に久しぶりだった。エルはすでにセッションルームを借りていて殆どそこで過ごすようになっていたし
信弘も相変わらず忙しかった。ミナは、ヒトシが淋しくないようになるべく一緒にいた。

「パパ、このグループ知ってるの?」「そりゃあ、モチロンだよ。」と言ったが、それ以上は秘密を厳守しなければいけない。
何せ、辿って行けばこの中の一人の会社だったしな、あの印刷の仕事は。
「ミナ、この頃、その、どうなんだ?」「どうって?ああ、彼氏ね。フフフ心配しなくても大丈夫よ。彼はまじめでいい人なのよ。」
「そうか?…そりゃあよかった…。」「?何なの?」「うん…。云いそびれてたんだがな、この間ミナが大変だった時にな、パパはそばにいてやれなかった。
その…すまなかった。いつも留守で力になってやれなくて。」
「いいんだよ!パパ。わかってるって、一所懸命働いたんだよね。」「う…。」話そうとすると涙が出てきそうで、言葉に詰まった信弘だった。
それを見ていたエルが「そうよ。まあ必要な時には傍にいてほしいのは本音だったけど。これからは家族と言っても一人ひとりが目標を持っていろんな事にチャレンジ
していけばいいのよ。自分の人生を自分で見つめなおしてね。」
「じゃあ家族の意味ないじゃん。」「そんなことはないのよ。だってあなたを産んで育てた時期と、それからの時期が家族にはあるのよ。男とか女とかの役割も、
変化するのよ、きっと。」「ふーん。私はちゃんとした家族を作りたい。」ミナは希望を持って言った。「ちゃんとした家族って何?どんな形がちゃんとしてるって言える?
これからはきっと心のつながりの方が優先されるんじゃないかな。」「じゃあ、どんな形でもってことね。女が働いて男は育児でもいいってことね。」
「モチロンよ、その家庭で最良の方法をみつければいいのよ、きっと。」話しこむ二人に、「ホラ、もう始まるぞ。」と信弘が終止符をうった。

゜゚゚ ゜゚天の川銀河からの贈り物~天使の運命~☆゚ ゜゚

ロスの南部。それは広大な野外コンサート場で始まった。ナップグランドのはじけた演奏でメンバー全て最高潮に達していた。
とにかく全員が調子よかったし、出てくる音も今までのリハーサルでさえ出せないような魂のこもったものだった。
ヤスは少し不思議だった。自分がこのバンドにのめり込んでいることもそうだが、演奏(や)る曲全てにお互いが同調しているようだった。
だが 始まる前、ミシェルは不気味な笑みを浮かべて、ヤスを侮辱するかのように一瞥した。
思わず握りこぶしが出そうだったが、傍にムネトモがいて、それとなく制止してくれた。
「これが終わったら覚えていろ!」そんな感情が浮かび上がってくるのを止められなかった。だが今は、演奏に集中できている。あともう少しだ。
ヤスはファンを見まわして、昨日のムネトモの言葉を思い出した。「そうだ、自分の愛の思いだけをいま思い出そう。」人知れず深呼吸したヤスだった。

そして後半終わり近く、ムネトモのソロと「あの」曲だ。
急にシーとなった舞台と、暗くなった照明。そして…レーザーの稲光が!ゴロゴロ!ピカッという音響とともに舞台上を這って行く。
やがて ムネトモのソロ演奏が鳴り響く。素晴らしい指さばきと共に、魂にまで鳴り渡るようなメロディ。聴衆の顔はその曲にくぎ付けだった。
中には涙する人、顔を手で覆う人などもいる。…そして…
「エンジェル・ディスティニー」の演奏だ!
ヤスの独特な声とドラム、ギターの音が宙に舞うように鳴り渡る。

エンジェルディスティニー 天使の運命
                          

雷雲と共に祈り 落雷と同時に 地に放つ 想い

闇に由来し 天に帰る 百万億劫の果ての彼方

螺旋を 描き 放たれた 矢は 心臓めがけて突き刺さる

   !!光あれ!!

スパークの中に 多くの 天使
    会いたかった 永劫の 時からの  今ここに

    (ムネトモのギターとフルート、ハープ、バイオリンの間奏)

天と地のひとつに混ざる 悠久をへだてた海 その地に残る無念

妖かしの玉 解き放て 光と闇を知り尽くすんだ

あまりの眩しさに 目が潰れてしまう前に 心と体をさらけだせ

   !!光あれ!!

溶け出すことば また混ぜ合わされ
    かたちもみな消えてしまい 澄み渡る音色だけ

    (ムネトモのソロギター・聖歌の合唱)

   !!光あれ!!

スパークの中に 多くの 天使
    会いたかった 永劫の 時からの  今ここに

    そしてムネトモのギターとフルート、ハープ、バイオリンのエンディング

ヤスのボーカルとバンドの音、間奏にはバイオリンやフルートの音が悲しく、地上に降りた天使の運命の行く末を奏でる。
皆は真剣そのものだったし、酔いしれていた。ミシェルは?…彼が目を真っ赤にしているのをヤスは見逃さなかった。

最高潮の拍手だった。ゴーっと鳴り響いたかのように、みんな思いっきり叩いているのが分かる。
顔を紅潮させたムネトモがマイクの前に立った。
「みなさん、聞いてくれてありがとう!ここで演奏(や)れて、皆に会えて嬉しかったよ。」笑顔でそう言ったとたんまたゴーっという拍手が起こった。

「世界ではいまいろんな事が起こっている。いいこともあれば良くないこともだ。その良くないことにフォーカスしたとき、いつも「愛のない感情」を味う。
それはとても嫌な感じなんだ。だから、「愛のある」演奏をしたいし、「愛ある」言葉を伝えたい。
「愛ある」場は 見えない形成磁場を創るんだ。それが周りに及んで行って、平和を創って行くんだ。それは歌うことでも何でもいいから、そう思うことなんだ。
「愛を注ぐ」ように、みんなで歌って行こう!」
会場は一つの坩堝のように、エネルギーが渦巻いた。

゜゚゚ ゜゚天の川銀河からの贈り物~天使の運命~☆゚ ゜゚

放送を観終わったあと「涙出そう…。」ミナが鼻をすすった。「凄かったねえ~ミナはアルバム持ってるんでしょ?」
「ウン、聴いたけどこれもまたスゴイよ!何かエネルギーグッズって感じ。それ持ってるだけで幸せな気持ちになれるんだもん。」
「へえ~じゃあ貸してよ。」「だめだよ、ヒトシのとこにあるの。ママ買いなさい。」「ウホン」信弘は思わず咳払いをした。
何となくだが、アレはスゴイ。何がって分からないが、「気」が出ているように思うのだ。「パパ、どうしたの?」「あ、いや何でもないよ。それより
お腹がすいたな。」エルは立ちあがって支度をしながら言った。「今買い物に出るわね。もういい時間ね。」
そろそろ久しぶりに手作りの食卓でも飾ろうかとやる気になったエルだった。

玄関のドアを開けようとしたとき、ミナがすっ飛んできてニヤニヤしている。「どうしたの?」「うん、あのね。やっぱりミルクティーラスク買ってきて。」
「まあ、嫌いじゃなかったの?」「嫌いっていうのは、その時の感覚だった気がするの。もう一度食べたい。ママとの思いでの味だもの。」
「まあ、泣けるようなこと言ってくれて。」とつぶやいたエルの目頭が熱くなっていた。

三月の夕暮れはまだ早い。もう陽が沈もうとしていた。
ミルクティーラスクね、あの時もそうだったな。以前あのスポック船長に会った時のことを思い出していた。
あの時、ふと感じた懐かしさが胸をよぎった。
「フフフ、可愛い子だったわね~」歩きながら、川べりまで着いた。橋を渡りながらその景色を眺めていると
向こうの方に、あの時と同じように川の上、空の彼方に光るものがあった。「あ、あれは!この前の光りと同じだ!」そう思って立ち止まったとき背後で声がした。
「この前会ったよね。」スポック船長だった。同じようにいつのまにかそこに立っていた。
「あら、こんにちは。」エルは微笑みを浮かべた。
「ヒカリに入ったんだよね。」「そうよ…よく知ってるね。」「僕見てたんだよ。」
またまた不思議なことを言う子だわ。この前の神社を抜けたところまで行った、あの空からの光りのことだ。
この子超能力があるのかもしれない。エスパーはいるって信じてるもの。
「見てたの?あの時自分の姿はわからないんだけど、どんな感じだったか分かる?」「…いい感じだったよ、だって素直なんだもんおばちゃんは。
ねえ、宇宙人がテレパシー使って話しかけること分かってるよね。」
「やっぱりそうなんだよね、頭に響く感じ。でも聞いた内容は忘れてるのよ、残念だけど。」「え、そうじゃないよ。人の脳は意識してなくても記憶しているし
それは思い出せるんだよ。宇宙人が言ったのは、おばちゃんやこの星の人たちの関係のことなんだよね。ちょっと気に入らないことがあると、怒ったり、悲しんだり
して苦しみに入って行こうとするでしょ? 自分たちの利益で、戦争もするし。そんな人間の中でおばちゃんは小さい頃からこの星になじめなかったんだって。
宇宙に生きた記憶が素晴らしかったんで、もう還りたいといつも星空をみあげていたんだ。それで昔離された魂のカタワレを探しているんだって。
永いことすれ違いばかりだったその魂のカタワレは、今のこの地球(ホシ)に生まれてきているんだってさ。」
両手を広げて見せて、スポック船長は肩をすぼめた。

「タマシイノカタワレ?」その言葉を聞いたとたん、胸がキュンとなったエルだった。
何故か判らないが懐かしい思いが込み上げて涙が一筋スーッと頬を伝った。
「おばちゃんは他の星でもそうだったように、なじめない感覚が何故なのか知りたいと思ったんだ。それはまたカルマを解放することでもあるんだよ。
タマシイは、自分たちが別々の経験をしたいと自分たちを切り離すことがあるんだ。いつかは一つになることを願って、全く別の星に生存したりするんだ。
そしてたっぷりいろんな経験をしながらまた自分のカケラを探していくのさ。
表面上の記憶はなくても、感覚で思い出すんだよ。そして万が一そのカタワレを見つけると、不思議とわかるんだ。」

「そんなことあるの?こんなに広い宇宙で別れてしまったのに?」
「うん、ヒューマノイド(人間)は目を見ればね。目の奥に同じ輝きを持ってるってわかるんだよ。まあ、他の型の生命体ではちょっと違うんだけどね。」
「なんだ、テレパシーで分かるのかと思ったわ。」
「テレパシーとかはすでに、バンバン使ってるんだよ。いつも淋しくて星空を見てた時や、無意識に呼んだ時はお互いがエネルギー体として行き来しているんだよ。
それは微細なテレパシーと同じ働きなんだけど、無意識の領域でのやり取りだから夢見ているみたいなんだ。でもそれで無言の会話をしてお互いを包んでいるんだよ。」
「ふーん、そうなのね!すごいね。宇宙のパートナー?ソウルメイト?…か。スペース・ソウルメイトなんだね。」
エルはこの突拍子もないアイデアが真実(ほんとう)のように思えた。何だか心の奥を見透かされているようでもあった。

エルはこの小さな背の、あどけない声を発する子供が、大人顔負けの知識を、例えそれが空想であったとしても、知識として言葉から出ることが信じられないでいた。
いったいこの子は超天才のサイキックなのだろうか。
「ねえ、ボクはいったい…」そう 口から出たとたん、スポック船長は空を指差した。
「…そろそろだね。合図してるよ。」沈みかけた太陽を背にした 宇宙船が光っていた。
「あ…。」「おばちゃん、もうボク行かなきゃ。おばちゃんの小さい頃から、おばちゃんが星空に向かって想って見てたこと知ってるんだよ。

あのヒカリは宇宙からの訪問をつないでくれる「道」みたいなものなの。 それとね、テレパシーっていうけど、タマシイの記憶とかも分かるんだよ。

だから、おばちゃんにもう一度あのヒカリへ入ってもらったんだよ。今まさに、おばちゃんたちは…。」「私たち?」

「エッと…しまった。」スポック船長は手で口を覆った。
「今は話せないんだ。人のタマシイの方向性には介入できないからね。いつか全て分かるときがくるよ。それより、宇宙人や銀河の連邦があるってこと信じてほしいんだ。
前に悪い宇宙人のことも言ったけど、そんな存在ばかりじゃないってこと。そして、地球を見守る存在もちゃんといるってことを。」

「ええ、わかっているわ。あのヒカリにしてもそうだったもの。善とか悪とかを超えた「愛」を感じたの、あのときに。」
「ここは物質のある三次元だけど、それ以上の次元もあるんだ。そこには物質としては何もない意識だけの世界もあるんだ。まさに人間の云う調和とか愛とかいう次元もね。
宇宙にはいろんな存在もいる。おばちゃんがこの地球にやってきたんだって、タマシイの想いと、カルマ的なことや周りの次元との合意があったんだよ。
おばちゃんは「愛」の次元の色が濃いね。」
「そうかなあ、本当にフツ―に生きてるんだけどね。でも自分を誤魔化したくない、「愛」に沿って生きたいよね。」
エルはそう言って照れて鼻に手をあてた。
「そうだ、この前のミルクティーラスク美味しかったよ。この身体に成った意味はあったんだね、ウン。」
「そうなの? でもよかった~またあげるからね。」よくわからないことを言うかわいい相手に微笑んだエルだった。

「さあ、そろそろ行かなくちゃ。また、いつか会えるよ。」
意味深な言葉だったが、エルは何故かすごく寂しい気がした。

「また会えるよね。何だかボクと話していると楽しかったし、また会いたいな。」「ウン、また会えるよ。」そう言ってスポック船長は初めてニコッとした笑顔を見せたが、
ぎこちない少しひきつったような笑顔だったのが妙に可笑しかった。

夕暮れの太陽がまさに沈もうとしたその時、あのヒカリがこちらに伸びてきた。
スポック船長はその中へ入って、手を振った。エルはその光景が不思議だとも思わなかった。まるで見慣れたシーンのように、手を振り返した。
「言い忘れてたけど、ラスクのお礼、しといたからね。プレゼントしたよ。」「えっ、何のこと?」

「うーん、あのね。ほんの小さな奇跡をね。」そう言ってからヒカリが増してスポック船長は見えなくなった。
本当に寂しいなあ、他人とは思えなくなっているみたいね。エルは胸のあたりが締め付けられるようだった。
「ああ…。」と、その時その声はした。それはエルのさっき話していたスポック船長の声ではなかった。それに何だろう…頭に直接響いてくるではないか。
「何なの?一体全体誰?」不気味に思って落ち着かないエルだった。その声は太く、男性の年配の人のようでもあった。
「まだ声を出しているんだよ、エル。直接のテレパシーとしてね。私はスポック船長ではないよ。指揮をしてはいるがね。それにこの言語は今の私と
丁度同等の話し方だと思うよ。それくらいの存在だということだ。私はもう地上から離れるが、いつも君たちを見守っているよ。

起こる出来事には介入はしないが、何かをサポートしたいと思うのは宇宙存在としての心意気だと思ってくれたまえ。ハハハ。」
「あなたは…。」「想いを宇宙に投げかけた、小さな子を見つけたんだ、あの時にね。そう、いつかの星での私の子でもあった、タマシイをね、エル。
またいつか必ず会おう。それまで想うように生きなさい、エル。」そして、ヒカリが消えて、宇宙船もいなくなった。

゜゚゚ ゜゚天の川銀河からの贈り物~天使の運命~☆゚ ゜゚

「お前、よく食うな…。」半ば呆れているムネトモのそばで、ヤスはひとしきり注文した分をたいらげた。
日本食レストランへ誘ったのはムネトモだった。ヤスは大好きな日本食をこれまたいい気分で食べられて幸せだった。

「昨日までのツアー、とりわけ初日はすごかったですね!あれを思うと食欲出るんっスよ。」
「そうだな。お客さんと一体になれたはじめての感覚だったしな。みんなよくやったよ。」

「そうっスね。けど、この前のデータをいじるとかって言ってた、あのアルバムの売れ行きはすごかったんですよね。なのに大丈夫かなあって…思ってはいたんですけど。」
ヤスは神妙な顔つきになった。まだ心配の種は残っている。
「それだけど…。」何がおかしいのかムネトモはニヤッとしてヤスを見た。

「データハイディングをハイディングしたのさ。」「エッ?どういう意味です?」「つまり、やつらがイジッたデータを、またこちらで書き換えたと言ったらいいのか。」
「それって、何かを付け加えたんですか?」「そうだな、付け加えたというよりは…。」
ムネトモは、あの宇宙の砂研究所でのことを思い出していた。
あの時黒パーカーの男が出てきて、あの謎の砂、つまり宇宙鉱物のことを聞いた。そう。

~見せてくれたのは黒っぽい鉱物で、大小を手のひらに乗せてもらった。

「これが、例の…。」「そう。これを粉砕して砂よりもっと小さい粒子にします。後の使い方はいろいろですよ。」~と聞いている最中にケースから手に持った鉱物が振動したかと思うと
ムネトモの身体が急に全面床にたたきつけられそうになった。そして、床上10センチ位でギリギリ止まったかと思うと、
完全に腹倒し状態のまま今度は直立後に後ろに倒れかけた。

またまた数センチのところで止まり、今度は横側や斜めなど、世界で最も恐怖するジェットコースターより余程心臓に悪いようだった。ムネトモはその何十秒かという間が
永遠のように思われて生きた心地がしなかった。

「ありゃりゃ…。」と悪びれもなくその研究者は手袋をした手をカメレオンの舌顔負けの早さでサッと動かし、その鉱物をムネトモからひったくったかと思うと
傍にいたマイクを呼んで、その鉱物をトレーに乗せて別室へ持って行かせて粉にしたのだ。
「これはこの鉱物の特徴でしてね。はじめに素手(て)にした者の意思を受け継ぐんでして。へへへ。」と説明した。
「これ(鉱物)が生まれたのは、鉱物ばかりが進化する星でして。そこでは意思というエネルギーを吸収する鉱物が沢山ありましてね。これはそのうちの一つで
最初に触った人の意識が入るんです。」
「じゃあ、どんな意識でも入れてしまうということですか?」「へへ、まあ、そんなとこでして。ああ、でもよかった、よかった。最初があなたでね。もうあなたの
意識通りに動いてくれますよ。」
「それはどんなふうにですか?」
「あなたの意思を伝えてください。まあ沢山はやめといた方がいいですがね。混乱しちまうみたいでね。シンプルにね、呪文とか
言霊ってあるんですかね?それみたいにですよ。あ、でも自分の言葉で、ですよ。」

「これをいろんなものに使うことはどうなんですか?」

「そりゃあ、何にでもお使いいただけますからね。ずっと何かで持っていたけりゃあ、それはそれで
あなたを守ることもできます。意思意図を入れたらその通りに働きますよ。へへへ」

そう言って研究者は手をさすりながら、不気味に笑った。
売買が済んで、ムネトモは疑問に思っていたことを聞いてみた。

「あのう、こんなに文明が違う星にいるのに、どうしておカネが必要なんです?この科学があれば何でも出来そうに思うんですが。」
「いやあ、地球(ここ)でしかないものもあるんでして。マイクにも給料払いますしね。それに…。」
「それに?」「へへへ、みやげ物ですよ。めずらしいいわば私たちにとっては レトロ趣味になるんですが、地球(ここ)のものは希少でして。
欲しがる者もいるんですよ。まあ、現物は持ち込めないですがね。波動と言うか次元もちょっと違うのでね。大きい箱(スペース)がいるんですが
それがまた地球価格では高価でして。それを提供するものと地球(ここ)の物とのいわば、物々交換になりますからねえ。」

宇宙は広いものだと ムネトモは感心するしかなかった。

「それで、粉にしたやつをインクにしてあの盤面に印刷したのさ。」黒パーカーの男は、どんな意思をも凌駕すると言った。すなわち盤面全部、
いやジャケット全体そして、そのパッケージやそれを手にする人にも影響はあるのだ。
「影響ってどんな風に?」「うん、波動とか、量子とかいうやつさ。つまり…それがエネルギーとして放射して周りへ影響を及ぼす。そして音叉みたいに
その波動に周りが共鳴していくんだ。
宇宙の鉱物は波動が高くて、その上に未知のエネルギーがあるんだということだ。それに「意思としての想い」を入れるとそのように調整して叶えてくれる。
まあ、究極の 願望成就グッズみたいなものかな…。ただ、範囲はあるけどね。それでも、今回のはかなりパワフルなんだってさ。」
「じゃあ、悪いことにも使えそうですね。」「そうなんだ、それで聞いたんだが…。」
ムネトモに黒パーカーの男は、間違った使い方をすれば禁固刑になると言った。その意味とは、刑罰としても、その者の生涯としても、破滅の方向へ導かれるからだった。
「仮に悪の方を選んで、意図を入れるとします。そうすると、願いが叶ってその後、それをした者にも同じようなエネルギーが入るんです。それで自滅していくんですよ。
それも迷惑だし、まわりに害も及ぼしますからね。刑として罰せられるんです。」
「そうなんですか、それで一体何を刻印したんです?」「それは…、あのツアーで聴衆に向かって言ったことと同じだよ。「愛」を選ぶことを最優先するということだよ。」
「では、ミシェルたちが入れた、人を悪の意識に向けるというデータは…?」「愛に変わった。」ムネトモは笑った。ヤスも思わず笑った。
「なんだ!万歳じゃないですか。なんだ…。でも…。もうひとつあります。配信の方はどうにも出来ませんね。」残念そうにヤスは言った。

「ハハハ。」ムネトモは可笑しかった。そうなんだ、それとてもしてやった。
「それは、担当者から聞いておいたオーディオデータを、スタジオへこっそり入って細工しといたよ。」「つまり…?」
「オーディオデータはパソコンなどのデータだから触れない。だけど、あれ(鉱物)は砂以下の粒子なんだ。つまり、それらデータの傍に置くといいんだよ。」
ヤスは訳が分からない顔をして首をかしげた。
「いいかい。パソコンやディスクをいちいち扱うより、データの大元が書き換えられたらいいんだよ。だから、透明な接着材様のものに混ぜて見えないように
建具やパソコンの裏側何かに塗布してきたんだ。いろんなとこに塗ったよ。机の下とかね。あ、近くにあった彼らのギターや楽器のどこかにも…。」
ニンマリと満足げなムネトモだった。

「だからか!すんなりとツアーが無事済んだんだ。あいつら、文句もなかったですしね。それどころか、ミシェルなんか、毎回泣くんですよ。分かりずらいかもしれませんが
オレ傍だから、目を真っ赤にして、ほらあの天使の歌の時に…。」
「知っていたよ。あいつは天使だからね。」
「ええっ?サタニストって悪魔に忠誠を誓ってるんでしょう?」
「そうなんだが、あいつの家系を辿って行くと、ケネス家ともう一つ母方から遡る家系があるんだが、それがどうも…最も古い地方の古い家系、地球へ降り立った
天使が残した家系があるんだと知ったんだ。実は知人を頼って、考古学や古代史に詳しい人を見つけたんだ。その人からいろいろ聞いたんだよ。

天使とは宇宙から飛来した存在、そしてその混血がミシェルの家系と繋がるんだ。サタンも元は堕天使つまり、形を変えた天使と言われているが、どちらにしても
善悪を分けた家系なんだな。多分、これは推測だが、ミシェルはその天使のDNAを思いだしているんじゃないかな。それも感覚的に、無意識でね。
それをなしえたのは音楽であり、あの鉱物なんだと思う。」
「そうだったのか…。いや、いま感動してます…そうなんですね。」ヤスは言葉にならないようだった。
「ミシェルとは 昨日少し話したんだ。その時に言っていたんだよ。」ムネトモはミシェルと話をしたことを思い出していた。

楽屋の入口で 出てきたミシェルとばったり会ったのだ。
「ヤスはもう帰ったの?」「そうみたいだね。どうした?何か気になることでもあるのか?」「いや、この前から何かと突っかかって来るから気まずくてね。
少し話そうかと思ったんだ。」「何を話すんだい?」「…わからない。」「もしかして、彼の弟のこと?」「…知ってたのか。最近周りから、
誰かその話を嗅ぎまわってるって情報が入ってね。誰かと思ったらヤスの知り合いだった。ふん、直接聞けばいいのに。」
「いったい、どういうことだったんだ」聞いたムネトモに「ハハハ。」心なしかミシェルは悲しげに笑ったが、目は笑っていなかった。
「あれはヤスの思う通り俺たちの仕業だ。いや事実は違う。儀式殺人だからね。」さらりと言ってのけるミシェルを、憤りもなくそのまま見つめている自分が不思議な気がした。
「あの時、上からの指令があり、行動しただけだ。彼の弟へ何の感情もないさ。憎しみもなければ、話したこともないんだからね。」
その言葉と裏腹に、長いまつげを下向きにして、目線をそらしたミシェルだった。
「そんなことをしてどうするんだ。一体何のために。」呟くようにミシェルを見つめたムネトモだった。
「もうわかってるんだろ?組織に入ってるってこと。これは生まれついた業なのさ。僕らは思い込まされる。判断はナシだ。頭から信じて、硬く硬く人生を創るんだ。
だが、どうしてなんだ、最近おかしいんだよ。ここ(胸)が苦しいんだ。何故かな。僕たちは選ばれている者なんだ。だから富も名声もなんだって手に入る。
奇麗な女も最高の車だって。それさえも、至高の目的にはかなわない。この世界をつくり変えるんだ。そのためには何をしてもいいんだ…そう思ってきたのに。
自分の根底が揺らいで倒れて行くって、どんな感じかわかるかい?」
「いや、わからない。そんな信念も持っていないよ。」
「そうだ、僕たちは選ばれし者なんだよ、古来からのね。だけど…。」
「君は少なくとも天使系…なんだ。」ムネトモは言ってのけた。

「なんだと?」
「天使の遺伝子を持つ家系の血が入っているんだろ?天使とは気高い宇宙存在だったんではないのか?
この地球に降り立って、人々を導いた。生きる方法を教え、遺伝子を操作して今の人間を創り上げた。」
「Why?」「古代史の専門家の知り合いに聞いたんだ。でもその時に思ったよ。今の人間の真実の部分はそこから来ているのではないかな?
良心があり他を慈しむ。
決して自分たちだけが生き残ろうとは思わない種なんだと。創造主により近いということは
善と悪、闇と光で言うなら、そこを超えた存在と言うことだ。だからその二元性にこだわったりしたくないし、まして悪が究極の善となるとは思わないよ。」
「う…どうして、それが分かる?今まで信じてきたものが真実なんだ…。」弱々しくミシェルは言い放った。
ムネトモはやさしく言った。「もし、ここ(胸)が痛いなら、それをもっと感じ取ってみろよ。人から教え込まれたものは一旦外に置くことだな。」
何かがミシェルに起こっているようだった。

ヤスにミシェルと会話したことを話そうかと迷ったムネトモだったがあくまで自分の考えとして、ヤスに言った。
「ミシェルはきっと自分でもわからないが気付いているよ。自分の本来の遺伝子をね。それが分かるのはもう少し
後かもしれないが、それを待とうじゃないか。何故なら、刷り込みや洗脳と呼ばれるものほど厄介なものはないからね。それも生まれた時からだ!ダイヤモンドのように
硬くなった信念だろうよ。」
「そうかもしれませんね。ともかく俺はツアーが終われば脱退します。ムネトモさんには本当に世話になって、こんなこというのは嫌なんですが。」
「いや、俺もそうしようと思ってたんだよ。日本へ帰って仕事に専念するよ。音楽はモチロン続けるさ。また新しい未来を築いて行こうじゃないか、ヤス!」

゜゚゚ ゜゚天の川銀河からの贈り物~天使の運命~☆゚ ゜゚

エルは自分の仕事スペースが気に入っていた。
ちょうどサイコの仕事場の近くでもあったし、駅から近くて便利な場所だった。
時折サイコとこのスペースでお茶をした。いつも手土産にケーキを持ってきてくれるのだ。エルはこんな生活を楽しいと思った。
仕事は始めたばかりで来客もそこそこだったが、いろんなアイデアも浮かんでいた。

「HPも作って、チラシも作成してみようかな。」「そうだね、なんでもとりあえず試してみたらいいよ。私のルームにも
置いとくからさあ。」
エルは思わず「助かるサイちゃん、持つべきものはあなた…よね。」と手を合わせた。

「ああ、何だろうねえ、この軽いノリは。ま、いいか。エルの独立の門出だもん、協力するよ。」サイコは笑った。
「サイコとは、本当にどこの生で出会ったのかなあ。もしかしたら、前世は敵どうしでさあ、この現生で仲良くしようと約束したのかもね。」
エルははしゃいで年上らしくなく、話した。
「そうだねえ、エルは年上にも思えないしね。ねえ、人ってその関係によって態度が違ってくると思わない? 私も年上でこんなこと言える友達
エルだけだよ。」
「そうね、家族だって、親子だって、関係性に違いはあるよね。それぞれに、性格とかもあるけど、何故かこの人にはこういうことが出来るとかっていう関係ね。
それって、もしかしたらソウルメイトなんだけど、お互いに克服していこうとすることが違うからなんだろうか?」
エルは続けた。「私の場合は、主人との間がどうも因縁めいているし、子供とだって何かありそう。でも、いろんな関係性を自分の中で克服していくことが
この世に生れて、ご縁が出来た本当の意味じゃないかと思うの。
主人にしても、こんな私とでも何か学びはあったと思うしね。」ちょっと照れてペロリと舌を出したエルだった。

「じゃあ、今でも御主人のことを以前みたいに愛せるの?」
「ううん、それとは違うの。同じ愛でも少し違う。ありがとうとは思うし、今までのこともお互い様だとも思う。私も子育てもしたかったし、淋しければちゃんと
正面から話せばよかったし。
結局自分の真の気持ちに気付けなかったことが後悔と言えば後悔なんだけど。
今の愛は、これまでよくぞお付き合いくださいましたという感謝と、タマシイとして一緒に経験してくれたという想いでの愛なんだよね。
まあ、そんだけ広くなれたのかな?」

「なに、それって一緒に暮らすことや結婚ということではどうなのよ。結局は?」
「う~ん、よくわからないっていうのが本当のとこよ。今爆発的に離婚も多いけど、これは人々の意識が開かれているからだって何かで読んだことある。
つまり男性とか女性とかの役割を、押しつけでは出来なくなっているってことよね。そして人間は両性具有に向かっているってね。
そうかもしれないけど、私は今一度、もっと考えてみたいの。男性性と女性性をバランスよく持っているってことがどういうことかをね。」

エルは一人になって、仕事をしながら自立して自分というものを見つめたいと思っていた。
もし、一人で生きるとしたら、これから自分は何を欲しているのだろう。あんなに家族というつながりが大切に思えた過去だったが、今は何か変わってきていることに
気付いていた。それは周りの世界も、また大きな思想の流れが変化しつつある時期なのかもしれなかった。それはまた人々の意識をもっと広く拡大していくための
ものなのだろうか。 いつまでも同じ所にいることはできないのだ。時間が過ぎることはまた変化することでもある。
ただ、大切に思えるのはお互いのタマシイ的なつながりだ。それはどんな関係であろうとも、その意味を汲み取って行くことが、お互いのために
生きるということのように思えた。

゜゚゚ ゜゚天の川銀河からの贈り物~小さなプレゼント~☆゚ ゜゚

春先のある日、あるメールが届いた。
それは去年行った「妖気楼」でのライブで販売されていたTシャツに関することだった。
あのライブの時に…。エルはそういえばTシャツを買おうとしたが、売り切れていたことを思い出した。
そこで係りの人にこれからの販売先を聞いてみた。すると限定販売なので、同じものはないが、在庫があるのと思うので聞いてみるから
連絡先を書いてほしいと言われてメールアドレスと電話番号や名前を書いた。
その連絡が こともあろうに半年以上たって入ったのだ。
そのメールには 今在庫が切れていて申し訳ないということと、もうひとつのアドレスを示してあった。そこなら在庫があるかもしれないので
連絡してくださいということだった。

エルはもういいと 連絡しなかった。ライブで熱狂しているときは欲しいと思ったが、普段はミナでも着るだろうかと考えた。

ところが、だ。そんなときちょうどエルのクライアントの女性から、妖気楼のファンであの限定のTシャツが欲しかったんだと聞いた。
メールが来たこともあり、それなら一度尋ねてみようと、もうひとつのアドレスにその旨連絡を入れた。
メールの返事はすぐに来た。その文字を辿っていくと、どうも妖気楼などの芸能プロダクション関係ではないようだった。
M・J・comとかいう会社だった。返事の内容は、在庫のTシャツについても触れていなくて、申し訳ないが一度来訪してくれということだった。

日時を決めて連絡して、出かけた。

゜゚゚ ゜゚天の川銀河からの贈り物~小さなプレゼント~☆゚ ゜゚

丸の内近くのビルだった。エルはこの方面へ行くときは、少し型ばったドレスっぽいいでたちとヒールを履くことにしている。
何だかGパンでは行き来できない雰囲気があるのだ。

仕事を本格的に始めてから、エルはまた違う雰囲気を醸していた。元々可愛らしい顔つきだったが、少し手を施すことによって
大人っぽさと若々しさを上手くミックスしているように見えた。おしゃれも心のハリを保つのに必要なんだと積極的に自分へ奉仕することにしている。
「それがまわって周囲の人を明るくするものネ」フッと思いつきクスッと笑ったエルだった。

その大きなビルの7階に M・J・comはあった。
中へ入ると、秘書だと思われる美女がソツなく対応してくれた。
「あのう、ご連絡いただきました高富と申しますが。」「あっ、ハイ。お待ちしておりました。どうぞ、こちらへ。」
そして奥にある部屋をノックして、ドアを開けてもらい入った。
その部屋は取締役ランクと思われた。デスクの向こうで背の高い男の人が立っていて
下を向いた顔をあげた瞬間、エルはこの出来事が信じられなかった。なんとそこには、あのムネトモがいたのだ。
そのときのムネトモは ダーク色のスーツ姿で、まさに写真から抜け出たような場面に思われた。

「すみません、手違いがあったようで。」ムネトモは開口一番、エルに詫びた。
「手違い…ですか?いえ、いちどお尋ねしただけですが。」「でもずっと待っていただいていたんですよね。ライブの時にTシャツは完売したそうです。
それなのに、なんども連絡をしていただいたり、待ってもらって申し訳ない。」
それは妖気楼のライブで妖気楼のTシャツだったはずだ。ムネトモが謝る筋のことではない。それに、何だってここに私はいるの?

「あのTシャツは、こちらの会社で手掛けて企画したんですよ。最も販売先は違いますが。」「じゃあ、あのメールいただいたところなのですね。
一応こちらにあるかもしれないとのことで、お聞きしただけなので、どうぞ気になさらないでください。」エルは何もムネトモを責めていないことをアピールしたかった。
それに、企画したところにあるかもしれないなんて、連絡してくる方も本気で考えたのだろうか。

「今回、ずっと待っていただいたということをお聞きして、もしよかったら代わりになるかわからないのですが、ジュエリーを販売しているので
それをお渡したいと考えているんです。いかがですか?」いかがも何もなかった。エルは飛びはねしそうに嬉しくなった。あのムネトモのジュエリーもそうだけど
こうして、直接話をしていることが信じられなかったしワクワクした。
「ありがとうございます。本当にうれしいです。そんなお気づかいいただいて。」素直にそう言った。

「では椅子に座ってください。いまそちらへ見本を持っていきます。」
そういって、数点のジュエリーを手にしたムネトモが近づいてきた。エルは胸が高鳴るのを覚えた。サイコに自慢してやろう。ミナも羨ましがるに違いない。
「一応男性のものしか 取り扱っていないのですが、もしよかったら、気に入ったものをお持ちください。」

ムネトモはテーブルの上に ジュエリーを置くと、エルの顔を見つめた。
エルもムネトモも お互いの目を見つめた。ホンの一瞬目があった。そのとき二人はお互いの瞳の奥を、引きつけられるように見つめた。
エルは少なくとも、この状況がどんな意味をなすのか分かった気がした。あのスポック船長の会話でのことを思い出していた。

スペースソウルメイトは、瞳の奥に同じ波動を持つ、お互いにそれを読み取ることが出来ると。
いま、まさに、エルはムネトモの瞳の奥に、宇宙のあの懐かしい想いを感じ取っていた。それは懐かしいだけでなく、
もしかしたら、この人生で何度となく接したことのあるエネルギーのようでもあった。ムネトモはどうなのだろうか。
二人は お互いを見つめあっていた。それは言葉を超えた感覚だった。そう、タマシイが了承したのだ。お互いのことを。
言葉は出てこなかった。何を話しても、それは空虚に聞こえる感じだ。瞳の奥に広がる宇宙を見つめ合いながら、二人はいろんなことを悟って行った。

コンコンとドアをノックする音に続き、秘書がお茶を持って入ってきた。
二人は その時、お互いに目を伏せた。
秘書が出て行ってからも、二人は黙ったままだった。静かな昂揚…それはお互いが望んでいたことがいま達成されつつあることの証だった。
スペースソウルメイトに出会うということは、ただ二つが一つになることではない。
「それはきっと至高の愛が達成されるために、わかれるという経験があるんだ」とエルは思う。

ムネトモに今感じている感覚は、普通の愛とは違った。ムネトモも同じような感覚でいることもわかった。
不思議と流れる空気が 暖かく一つになっている。
「あの。」ムネトモが話しかけた。
「もちろんこのジュエリーを持っていって頂いて構いませんが。もしよければ、これを…これが良く似合いそうだから。」
自分の小指にはめているリングを外して、エルに手渡した。ピンキーリングだ。ムネトモが使っていたので暖かく感じる。
エルは自分の薬指にはめてみて、フィットするのが分かった。「まあ、素敵なリングですね。サイズもぴったりです。…いいのですか、大切なものなのでは?」

ムネトモは自分の使用するものを人に差し出したのは、ヤスだけだった。以前のラリーに渡したのは確信的に持って行ったものだったし。
ヤスに手渡したのも、弟にあげたいと創作したものだから自分のものでもない気がした。だが、これは試作品とはいえ、一番気に入った自分の物だった。

それに、今自分のしていること自体が信じられないことだった。このリングを誰かにはめてもらいたいと思うなんて。
まず、限定したTシャツが完売して、いくら待ってもらっていたとはいえ何故自分が応対して、ジュエリーを渡そうとしたのだろう。
人に任せたらよかったことではないか。現にいつもならそうするだろう。

でも今ここにいる人を見つめた自分の感覚も信じられなかった。はじめて会ったのになぜこんなに懐かしく感じるんだろう。目を見たときに、何かを思い出したんだが
まだそれが表面意識に上がってこない。思い出しきれない歯がゆさがあった。それに…、これもだ、この匂い。…ああそうだ、これはあの時の匂いだ!思い出したぞ。
ロスの自宅で、夜空を見つめていたあの時、光に包まれたときに嗅いだ匂いと同じだ。ローズとミックスされた少し甘い香り。
なんでこの芳香と同じなんだ? 少し混乱気味のムネトモを、心配げにエルが見つめた。

ムネトモのブランドは 通常は値が張った。それをただ、連絡ミスのような形と言うだけで、お詫びとして貰えるということは出来ないと思った。
「あのう、私、お気持ちだけで充分です。こちらに来させていただいてよかったです。」本当にそう思えた。微笑んでそう言って立ち上がろうとした。

「いや、そうじゃないんです。すみません、少し気になることがありまして。よければぜひこのリングを貰っていただきたいと…本当に思います。」
エルを見つめてそう言った。

「でも…。ただ連絡が来ないというだけで、私の方は何も気になりませんでしたのに、こんなことをしていただいたら…。」
「いえいえ、そのことは気になさらずに。それと…これは私の名刺ですが、たまにライブなんかしているんで、会社の方でもよかったらまた連絡ください。」

「まあ、ありがとうございます。では、私も。」とエルも名刺を差し出した。
「アロマセラピーですか、どうりでよい匂いがすると思いました。」
「あ…、これは好きでブレンドしたものを使っているんですよ。またよければ差し入れさせてくださいね。」

エルは深々とお辞儀をして、部屋を出た。
結局 他のものは辞退して、あのピンキーリングを一つ貰った。

「もしよければ、これを…これが良く似合いそうだから。」そう言ったムネトモの言葉を思い出しては胸が高鳴るのを感じた。
どうしてここまで気をつけてもらえたんだろう。気まぐれかもしれない…でも。エルには確信があった。

スポック船長が旅立ちのまえに伝えたこと、小さな奇跡をプレゼントすると。それがこのことだと思えた。
だって、あまりにもありえない連続だもの。それにソウルメイトのことも教えてもらった。それがきっと彼なんだ。
薬指に光るリングの後ろにはmunetomoというイニシャルが彫ってある。それをもらい受けたのだ。それが奇跡でなくて何なんだろう。

嬉しくて小躍りするほどの自分と、やっと出会えた感動の奥に、もうひとつ芽生えている気持ちを感じていたエルだった。

人はソウルメイトを求める。そしてスペースソウルメイトは いつかは一つになるだろうと思えた。私たち(という感覚だ)は何も言わなくても求めあうから。
けれど、学びの魂の盟友たちはいつか離れて行くのだ…。信弘ともミナやサイコともいつかは違う宇宙へ旅立つ。
そんな今の現実をどう生きるべきか…もっと考え感じてみたいと思えた。そして今をいきている人たちへのより深い愛を思い出したエルだった。

ムネトモは頭がボーっとしていた。いつも会社では経営手腕を発揮する、やり手の企業家なのだが、今は何故か胸が熱くてたまらなかった。
初対面の女性(ひと)にどうしてこんな気持ちになるのか…、きっとあのヒカリと関係があるのだと思えた。

あの時にもしかしたら出会っているのではないだろうか。初めてと会ったとは思えない。それに、目の奥に何とも言えない郷愁があった。
自分のいつも求めている故郷のような懐かしさだ。 普通の相手とは違うと思えた。ソウルメイト…という言葉が浮かんだ。
もしかしたら、どこかの人生かこの宇宙で出会っているのかな…。フッと微笑みが湧いてきた。出会えた奇跡かもしれない。

これが奇跡のままか、どうなるかはまだ分からない。
自分の心の奥にあるヒカリが決めるのだと思えた。それもまたどうなろうと楽しみだ。
何より、いろんな出会いがあって、自分は自分を見つめていける。
デスク上の家族の写真を眺めながら、ムネトモは目を瞑り深呼吸した。

゜゚゚ ゜゚天の川銀河からの贈り物~エピローグ・宇宙船の中~☆゚ ゜゚

「いや~忙しい忙しい…準備が遅れてしまったからな…」独り言を話しながら、廊下を歩く男の姿があった。
その格好たるや、中世ヨーロッパで着用されていたマント付きのロングコートなのだが、妙に背丈よりその衣服の丈が長いので
常に引きずっていなければならないようだ。服の下から伸びた白いローソクのような手と、大きい目の青白い顔が、黒い服の色で余計目立った。
男が歩くと、彩りのない白っぽい廊下は、有機質のようにグニャっと歩幅に合わせて動くのだった。

「やあ、今から帰りかい?ご苦労様だったな。」通りかかる相手に、そのようなねぎらいの言葉をかけてもらっていた。
「虹は出たか?」男がおもむろに聞くと、「ちょうどたった今、観察に入ったよ。」そう言いながら、相手は通り過ぎた。
それを聞いてそそくさと、とある部屋へマントの男は入っていった。

部屋の一面に形は不確かだが、モニターのようなものが設置されていて、誰もがそれに見入っていた。

「出たんですか?」一番前で立っている、大きな背の高い相手にマントの男が聞いた。

「やっと出始めたみたいだな…。しかし油断は出来んよ。それに…地球の3次元の色だけなんだ。」

「じゃあ、まだ7色で?」「そうだ、だが、薄く浮かび上がってきているんだが。」

「早く12色が出ないといけませんね。」男は小難しい顔をした。

「あれを見たまえ。」 背の高い男は威厳ある雰囲気で、目線を促した。

「あっ、あれはヴォルテックス(渦)ですが…、あ…アメリカと日本に出ていますね。」

「そうだ、やっと出始めたんだ…。もう少し遅いかもしれないが、まだ希望はある。あの渦がやがて地球のオーラへと広がらなければならない。」

「そうしたら地球は…。」「そう、地球自身が浄化(こわれる)ことも少ないし、虹だって5次元以上の色が出るんだが。」

「間一髪間に合うわけないかな…オットト…口が過ぎましたでね、へへへ。」

「地球は過去にも何回も、自らを立て直している。それが生物としての自浄作用だ。
そこにはいかなる物質や想念体も弾き飛ばされてしまう。だが、また土に埋まった種から芽が出るように、新たな文明が栄えて行くのだ。」

「同じこと…ですかい」「いや、そうじゃない。いつかはリピートされなくなるだろう。それまでは、この次元の時間軸で繰り返されるがね」

「あの人間たちも…。いやはや、どうなることやら。」

「…ヨーロッパにも出かけておるな…アジアにも…か。」「ありゃ~本当です!…薄っ~いのですがね。」

「これからの勢いで、未来が決まってくるな。エルたちも貢献しているだろうが…。人間の意識の広がりがことに進んでいるようだ。
それでも一度は建て替え直さねばならないだろうな。その後にどうしていくかだが、いつでも連続しながら各方向へ想念体は伸びて行こうとしている。
パラレルへと、異次元へともね。 そしてそのままの世界を築くんだ。」

「わたしらとは違う進化ですがね。大元はそう…同じ意識の中です。」

「少し気になっていたんだがね、君のその着用している物なんだが…。」
「ああ、これですか? どうです?この星で一番気に入ったものでしてね。みやげにしようかと思ったんですが、私が身につけたくて、へへへ。似合ってます?」

「まあ…いいんではないかな。地球での前世もあったようだから。」「へへへ、そうみたいです。では艦長、私はお先に帰還(かえら)してもらいます。」

「御苦労さま。よくやってくれたな。」

「まったく、長く住んだら情が移ってしまっていけない。…この地球(ほし)のオーラが輝くことを祈ってますよ。」
マントの男はそう言うと、またモニターへと視線を移した後、部屋を出て行った。

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壮大な宇宙からの物語「青い炎」の中で、現代に生きる魂たちの恋物語・・・。
その始まりと、結末は今後のお楽しみに♪

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